『gappy』インタビュー
おかもとえみが語る音楽の“隙間”と“微熱感”、同世代女性や自身と向き合って感じたこと
堀込泰行、EVISBEATS、mabanua…敬愛するアーティストたちとの曲作り
ーー楽曲は、この4年間で書きためていたものですか?
おかもと:「POOL」、「planet」、そして「ひみつ」の3曲は、3年前の配信限定EP『POOL』に収録されていましたが、それ以外はここ1、2年の間に作った曲がほとんどでした。
ーーちなみにアルバム制作期間中、よく聴いていたのはどんな音楽でした?
おかもと:最近、唾奇くんとフィーチャリングでご一緒させてもらってから、彼の音楽をよく聴くようになって。そこからBASI(韻シスト)さんが唾奇くんをフィーチャリングした「愛のままに」を聴いて、「なんだこのアンセムは!」と思ってBASIさんのアルバム『切愛』をよく聴くようになりました。昨年リリースされたillmoreくんのアルバム『ivy』も、未だに毎日聴いています。帰り道とか、電車の中とか、一人で聴くときにはヒップホップやR&B、エレクトロ系の音楽をよく聴いています。みんなでいる時は、J-POPを聴きまくりですが(笑)。
ーー曲作りはいつも、どんなふうに行なっているのですか?
おかもと:曲によってまちまちなんですけど、今回はパソコンの前に座って最初に押したコードから作っていきました(笑)。メロディもコードも出だしから全て同時に出てくることが多いんですよ。しかもAメロからサビまで、つるっと一気に作ってしまう。そのあと展開を考えたりして。
そんな中、EVISBEATSさんにお願いした「 (you're)my crush」という曲に関しては、最初に「レゲエを作りたい」というテーマありきだったので、ちょっと特殊なケースでしたね。何か具体的なモチーフがあって、そこから作るケースはほとんどなかったので新鮮でした。あとは、お風呂に入っているときにふと思いついたメロディを、忘れないように全裸のまま打ち込むこともありましたね(笑)。
ーー(笑)。いずれにせよ、最初はコードとメロディが思いつくわけですね?
おかもと:いえ、リズムパターンと歌とか、ギターやピアノと歌とか、手と口で出来るもので同時に作っていく感じ(笑)。ベーシストですが、ベースから作ることはあまりないかな。
ーー「僕らtruth」には、堀込泰行さんが作曲で参加しています。
おかもと:「おかもとえみ」名義では、誰かに曲を書いてもらうという発想がこれまでなかったんですけど、今回スタッフから提案があったときに、真っ先に思いついたのが堀込さんだったんですよね。というか他に誰も思いつかなかったし、堀込さんじゃなかったら今回のタイミングでは誰かに作曲を依頼しなくてもいいかなと思うくらいでした。ただ、堀込さんがオファーを受けてくださるなんて、夢のまた夢というか……「明日、火星へ行く」レベルの話だと思っていたので(笑)、決まったときには信じられなかったですね。「嬉しさ」と「ガッツ」と「震え」が同時に来ました。
ーー以前、インタビューさせてもらったときに「(フレンズの)『ショー・チューン』を作っているときは、キリンジさんと西野カナさんの、ちょうど間くらいの歌詞が書けたら最高だなって思っていた」と話していましたよね(参照:CINRA.NET インタビュー「観た者を幸せにできるフレンズ。秘訣は、やりたいことは全てやる」)。
おかもと:そうですね。堀込さんのことはキリンジの頃からずっと好きなんですけど、一番好きな曲がソロ(馬の骨)になってからの「Red light,Blue light,Yellow light」で。それこそ夜道に合うような、心の中に溶け込んでいくような曲だなと思っていたので、そんな雰囲気の堀込さんと今回は一緒にやってみたいなと思っていました。鼻歌のデモ音源を送っていただいたときにはもう、「このまま出したい」っていうくらい感動しましたね(笑)。老若男女全ての人に当てはまるような、教科書に載ってもおかしくないくらいタイムレスな楽曲にしたいと考えながら歌詞を書きました。
ーーこの曲はKan Sanoさんのトラックも印象的ですよね。
おかもと:そうなんです。堀込さんのメロディと、私の歌詞と、Kan Sanoさんのアレンジが混じり合って、とてつもない花火が打ち上がったなというか(笑)。「こんな色になるんだな」と思って感動しましたね。Kan Sanoさんのアレンジじゃなかったら、堀込さんのメロディじゃなかったら、私の歌詞じゃなかったら、全く違うものになっていただろうなと。
ーーこの曲と、mabanuaさんが手がけた「待つ人」のトラックは、やはり低音の作り込みが圧巻でした。
おかもと:mabanuaさんとはずっと一緒にやりたくて、そんな“待つ人”とご一緒できてまずは嬉しかったです(笑)。赤い靴の神谷さんもそうですけど、やっぱりすごいドラマーの方はリズムの作り方も独特で。空間の捉え方がグッとくるんですよね。
あと、今回はギターが入ることによる「浮遊感」みたいなものも新鮮でした。私自身、ギターが弾けないのでギターからのアプローチってあまりしたことがないんですけど、バンドサウンドではなく打ち込みと混じった時の独特の響きみたいなものを、OpusInnさんやShin(Sakiura)くん、EMCATさん(ENJOY MUSIC CLUB)、TSUBAMEさんのトラックから感じることができましたね。
ーー「planet」は唯一、えみそんさんがトラックプロデュースをしている楽曲です。
おかもと:もともとは、Moratorium Pantsという劇団の、『ヒットナンバー』という公演のテーマ曲を書いて欲しいと言われて作った曲です。前作『ストライク!』の時は全てが手探りだったし「自分で全部やらなきゃ」という気負いもあったんですけど、この頃は少し余裕が出てきたというか。自分が書いたメロディに、どんな音を乗せたら面白いだろう、とか色々考えながら作った思い出深い曲なんですよね。アルバムに収録する際、誰かにリアレンジしてもらう選択肢もあったんですけど、自分もトラックを作ったんだという「痕跡」も残しておきたくて、そのまま入れました。ちょっとした「箸休め」というか、アルバムの中で休憩ポイントになったらいいなと思っていますね(笑)。