番匠谷紗衣が語る、同世代からの刺激と「自分だけの空」を通して見つけた“揺らがない強さ”

番匠谷紗衣が語る“揺らがない強さ”

 シンガーソングライターの番匠谷紗衣が、先月リリースしたシングル『自分だけの空』。青い空を想像させるスケールの大きな歌声が秀逸な表題曲は、ドラマL『ランウェイ24』(ABCテレビ・テレビ朝日)のエンディングテーマとして好評を博した。同ドラマは番匠谷と同じ20代の朝比奈彩が主演、メインの演出も現役大学生監督として注目を集める松本花奈が務めた作品だ。番匠谷が同世代から受ける刺激とはどのようなものなのだろうか。また、普段から親しい女性シンガーソングライターとの交流から生まれる刺激や発見にについても話を聞いた。(榑林史章)

強さとは、自分を持つこと

ーー「自分だけの空」は、ドラマ『ランウェイ24』のエンディングテーマ。デビューシングルから2曲連続でドラマ主題歌ですね(1stシングル曲「ここにある光」はテレビ朝日系ドラマ『科捜研の女』主題歌)。

番匠谷紗衣(以下、番匠谷):今回は、Calros K.さんの作曲です。もともと私の引き出しにはなかったキラキラ感が表現された曲になりましたね。

ーー候補曲が他にもあったとのことですが、そのなかからこの曲を選ぶ決め手になったのは?

番匠谷:いちばんドラマに合っていると思いました。あとは、イメージはあっても、自分では出せずにいた、キラキラとした爽やかさがあって。前向きだけど切なさがあるメロディも素敵だったので、この曲を選ばせていただきました。

ーーそんなメロディを歌って、どうでしたか?

番匠谷:めちゃめちゃ難しかったです。聴くと「すごく良い」って思うけど、実際に歌うと難しくて(笑)。本番までにちゃんと歌えるようになるか不安もありましたが、たくさん練習して本番に臨みました。結果的に「自分でもこういう曲が歌えるんだ」という発見にもつながりましたね。

ーー冒頭で〈ah…〉と歌っているところが広い空のイメージととてもよく合っています。

番匠谷:この高音のコーラスを、どう歌うかはすごく考えました。地声なのか、ファルセットなのかハミングなのか。すごく迷って、いろいろ試してみて、その上ではじめから、ガッと地声で行こうと。

ーーそのほうが、力強さが出ていいですよね。

番匠谷:そう言っていただけてうれしいです。諦めなくて良かったです。

ーーでも、ただ音を伸ばすだけみたいな簡単な話ではなかった。

番匠谷:はい。一歩間違えるとただの叫び声みたいになってしまうので。力を抜きつつ力強さも残して、同時に美しさも出したいと思って。そういう歌い方を、どうやったらできるか研究して、今回新たに編み出しました。大げさではなく、本当に何百回も歌ったんです。家でボイスメモに録って、それをスタッフさんに聴いてもらって相談しながら、めっちゃこだわって録りました。

ーー歌って聴いてを繰り返しながら、徐々に方向が定まっていったという感じですね。

番匠谷:もともとデモに入っていた仮歌が、ミックスボイスで歌っていたんです。高い声でも余裕に聴こえるような歌い方で、それがめちゃめちゃ綺麗で。自分もこういう歌い方を目指したいと思いました。でも、これまでミックスボイスで歌ったことがなかったのでなかなか難しくて。低音は歌えるんですけど、高いところは叫んでしまう。どうやったら聴き心地良くできるのか、自分のなかでは壁にぶち当たった感覚でした。

ーーイントロから壁に。

番匠谷:そうなんです。でもおかげで、自分のなかで新しい発声方法を習得できました。この曲と出会わなかったら、一生この声は出なかったと思いますし、今後はこの歌い方も武器にしていけたらいいなと思っています。

ーーサウンドはピアノがメインで、お話いただいたようなキラキラとした印象があります。番匠谷さんのある種のトレードマークであるギターの音は入っていないですが、手持ち無沙汰のような感覚はないですか?

番匠谷:ギターで作る明るい曲と今回の曲では、まったく違うと思うので、音も歌い方も違っていいと思っています。最近は新たな扉を開きたいという気持ちも強いので、ワンマンライブではハンドマイクで歌うことも多いんです。弾き語りももちろんやりますけど、こういうスタイルの曲もどんどん歌っていきたいですね。

ーー“絶対に弾き語りじゃなきゃ嫌だ”という固定概念はない。

番匠谷:ないですね。ライブでは、ピアノの弾き語りもやっているので、今後もいろいろ挑戦していきたいです。

番匠谷紗衣 - 自分だけの空

ーードラマ『ランウェイ24』は、女性パイロットの奮闘を描いた物語ですが、どういう部分に共感しましたか?

番匠谷:自分が憧れた気持ちにまっすぐ、“自分ならこうすべきだ”というものを持っている姿が描かれていて。私自身もそうありたいと思って活動しているので、その部分にすごく共感しました。それに監督の松本花奈さんは、私の1つ上の21歳で女子大生なんです。主演の朝比奈彩さんも25歳で、お二人が同世代の女性であることにも共感しました。

ーーそんなに若い監督!

番匠谷:お二人とお話させていただく機会もあって、そこで感じたのは、朝比奈さんも監督も強い意志を持って作品に臨んでいるということです。どれだけ真剣かがすごく伝わってきて、そのときはまだ曲がデモの状態だったので、私も気合いが入りましたね。

ーー強い意志はどこから感じたのですか?

番匠谷:お二人の眼差しから感じましたね。目を見ただけで、芯の強さを感じて。同世代でドラマの監督を任されるほどの努力を重ねてこられたのだろうし、すごく尊敬できると思いました。朝比奈さんに対しても、もちろんそうです。そのときは少ししかお話できませんでしたけど、たくさんのインスピレーションをいただきましたね。

ーードラマの撮影は、番匠谷さんの地元にある関西空港で、制作には航空会社・Peachが全面的に協力をしているとのこと。

番匠谷:実は、Peachで私の知り合いの方が働いているのですが、すごく熱い思いを持ってPeachを盛り上げたいと思っていて。その方からも、「ぬくもりや励ましなどをひっくるめた、やさしくてガッツのある曲にしてほしい」という言葉をもらって、その言葉も「自分だけの空」にはすごく影響しています。

ーー様々な出会いや気持ちを受けて、どういうことをテーマに歌詞を書きましたか?

番匠谷:主人公の井上桃子が憧れに向かっていく姿に着目して、人生=旅をテーマにしたいと思いました。後半に出てくる〈自分だけの空 怖がらずに色を増やしていこう〉という歌詞は、個人的にもすごく気に入っています。桃子も私も、きっと多くのみなさんが、自分の心を削って働いていると思います。たくさんの人に出会って、そのぶん否定的なことを言われることもありますが、それさえも1つの色として受け入れ、心のキャンバスにどんどん色を塗っていきたいという気持ちを込めました。

ーー受け入れるには、強さも必要です。番匠谷さんのなかで強さとは?

番匠谷:自分自身を持つことだと思っています。小さくても大きくても、何かに憧れる気持ちは誰もが持っているものだけど、どんどん忘れていったり、諦めたり妥協したりしていくもので、私もそうなりそうになります。でも、そういう気持ちと向き合うことを、常に意識することが大事だと思っています。小さくても目標を立てて、それに向かって1つずつ進んでいくことが、日々自分を強くしてくれる。辛い出来事があっても、目標を持って気持ちを切り替えることができたときは、これでまた1つ強くなれたんじゃないかと思うから。もともと私はめちゃめちゃ弱い人間です。今も弱いんですけど、こうやって徐々に強くなっていけたらいいなと思っています。

ーー番匠谷さんはシンガーソングライターに憧れ、それを目標にして追い続け、実現させてきた。

番匠谷:はい。前作の「ここにある光」を書いたときは、“自分ってこんなにも揺らいでしまうんだ”と気づいて書いた歌詞でした。今回の「自分だけの空」は、揺らがない強さをひとつ見つけて書くことができました。私自身、これでまた成長できたかなと思います。

ーー強さと言えば、Twitterでは「何かを犠牲にして生きるほど、強くなれるから大丈夫」と書いていましたね。

番匠谷:高2か高3のときに書いた「春風」という曲の歌詞です。そのときは、就職する人たちがやりたいことがいっぱいあったけど、1つに絞って覚悟を決める姿を見て、そう決めること自体が強さだなと思って書きました。自分を持つという部分では、「自分だけの空」に通じるところがありますね。どちらの曲も働いている人に刺さってくれたらうれしいです。

ーー聴いた人には、「自分だけの空」を見つけてほしいですね。

番匠谷:はい。空はいつでも広がっています。自分の心の空、キャンバスのような空が、いつでもある。自分だけの空を持ってほしいし、自分自身も持っていたいと思います。

ーーカップリングには、番匠谷さんが作詞・作曲した「幸せのなかで」を収録。どういうきっかけで出来た曲ですか?

番匠谷:私は幸せを感じたときに、“本当に幸せになっていいのかな?”と思ってしまうんです。でも、すごく幸せな友だちの表情を見て、幸せになるということは、すごく素敵なことだという気づきがあって、そのときに書けた曲です。同じように感じる人は、けっこう多いんじゃないかな。“こんなに幸せでいいのかな?”と思う人がいたら、不安に感じる必要はないから、どんどん幸せになっていいんだよ、というメッセージを込めています。

ーー弾き語りで作ったんですか?

番匠谷:部屋で、一人で。朝方にパッと思いついたんです。

ーー関空の広い空を思いながら書いた「自分だけの空」とは、対照的で面白いですね。

番匠谷:自分の根本は、どちらの曲にも表れているなと思います。「自分だけの空」を聴いて知ってくださった人は、「幸せのなかで」を聴いて、こういう部分も持っているんだなとか、だから「自分だけの空」にも切なさを感じるのかな? とか、いろいろ想像してほしい。このシングル1枚で、いろんな私を知ってもらえたらうれしいです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる