宮本浩次の衝動と言葉がサウンドに直結した“決意表明” 1stシングル曲「昇る太陽」を聴いて
かくして、自身の誕生日である6月12日に初の弾き語りライブを敢行するなど、「これまでバンドではやってこなかったこと」を、ひとつひとつその足場を固めるがごとく積み上げてきた宮本浩次のソロ活動。その本格的な幕開けを告げるのが、“満を持して”自らが求める歌、求めるテーマを、まっさらな状態から形にした今回のシングル曲「昇る太陽」という次第なのである。詞・曲・編曲・プロデュースを宮本自身が、共同プロデュース及びストリングスアレンジ、さらにはプログラミングを村山☆潤が担当し、名越由貴夫(Gt)、TOKIE(Ba)、椎野恭一(Dr)、ストリングスはグレート栄田ストリングスという布陣で奏でられる「昇る太陽」。それは、〈遠い記憶の中じゃ/そうさ俺はsuper hero/いつか浮世の風に吹きさらされちまって/立ちつくしてた〉という、物語の“まえがき”のような言葉からゆったりと歌い始められるのだった。
しかし、その曲調は、畳み掛けるビートと、しなやかなに響き渡るストリングスの音色と共に一気に加速する。昨年、ドラマ『宮本から君へ』(テレビ東京系)の主題歌に起用されたエレファントカシマシの「Easy Go」のように、パンクロック的なビート感が鮮烈な一曲へと変化してゆくのだった。〈魂擦り減らして/目ざした物語はどこへいった?〉──独り煩悶する男の独白から、それを振り切るかのようにテンションを上げてゆくボーカル。それに並走するがごとく流麗なフレーズを奏でるストリングスの調べ。そして、これまでにないほど高いキーで歌い上げられる〈昇る太陽/俺を照らせ/輝く明日へ/俺を導いてくれ〉というサビのフレーズ。だがその歌声は、刹那的であるというよりも、豊かなサウンドのなかで、どこか伸びやかで自由な響きを湛えているのだった。なるほど、これは新しい。
“太陽”という言葉は、“月”と並んで宮本がこれまで歌詞のなかで何度も繰り返し象徴的に用いている言葉だが、この『昇る太陽』というタイトルを見て、今からちょうど10年前、2009年の4月にリリースされたエレファントカシマシ通算19枚目のアルバム『昇れる太陽』を想起したのは、恐らく筆者だけではないだろう。2007年に心機一転、ユニバーサルミュージックへと移籍したエレカシが、バンドメンバーのみならず、さまざまプロデューサーの力を借りて、今日へと至る新たな“黄金時代”を築き始めた頃のアルバム。蔦谷好位置が参加した「桜の花、舞い上がる道を」、亀田誠治が参加した「新しい季節へキミと」、YANAGIMANが参加した「絆」という3つのシングル曲を含むこのアルバムは、「新しい季節へキミと」という楽曲のタイトルがいみじくも表しているように、エレファントカシマシというバンドにとって、新たな旅立ちと決意の一枚だったのではなかったか。
その1曲目に収録された「Sky is blue」という曲のなかで、宮本はこんなふうに歌っていた。〈俺に昇れる太陽/今日も昇れる太陽/未来へと俺をいざなう〉。そう、新しい道へと一歩、力強く踏み出そうとするとき、宮本の心のなかには、いつも象徴としての“太陽”が昇り始めるのかもしれない。とはいえ、“昇れる太陽”と“昇る太陽”では、その視点が少し異なっているように感じられるのも事実だ。かつて、どこか客観的に見つめていた“太陽”とは、今や宮本自身を意味するのではないか。ここから昇りゆく太陽とは、ここから照らし出そうとする、宮本浩次としての新しい音楽を表しているのではないだろうか。〈You You You You You You〉──この曲の最後で連呼されるフレーズは、間違いなく我々リスナーを指し示しているのだから。
そんな決意表明のようにも感じられる「昇る太陽」を表題曲として、そのサウンドはもちろん、コーラスも含めてすべて宮本自身の手による──つまり、これまでにないほど、その衝動と言葉がサウンドに直結した一曲でもある「解き放て、我らが新時代」と、CMに合わせていつも以上に爽やかで明るい曲を意識したという軽快なロックチューン「going my way」をカップリングとした、ソロアーティスト・宮本浩次の“第一声”。8月の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』では、10日にスペシャルバンドを率いた“宮本浩次”として、12日には“エレファントカシマシ”としてステージに登場する予定であるという彼は、もはや自身にとって“ホーム”とも言えるその場所で、一体どんなステージを披露するのだろうか。そして、その行き着く先は、果たして何処なのだろうか。ソロの始動と共に立ち上げたホームページのタイトルは「宮本、散歩中。」ではあるけれど、恐らく本人としても、その自由度と可能性、そしてその道中の未知なる出会いにワクワクしている最中であろうこの“散歩”を──否、それはもはや“冒険”と言っていいであろうこのときを、エブリィバディ! 共にワクワクしながら楽しみたいと思う。
■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。