南條愛乃の旅路はこれからも続くーー過去・現在・未来が詰め込まれたバスラ公演を見た

南條愛乃、バスラ公演レポート

 これまで歩んできた道のりとこれから進めていく旅路を同居させたようなライブだった。雨の七夕の夜にTOKYO DOME CITY HALLで開催された『南條愛乃 Birthday Acoustic Live 2019』。全体としては、ちょうど1週間前にファイナルを迎えた全国アコースティックライブツアー『南條愛乃 Acoustic Live Tour vol.1 17/47~わたしから会いにいきます!~』の集大成のような内容となっていたが、オープニングとエンディングは、ベストアルバムリリース後の昨年秋に行われたホールツアー『THE MEMORIES APARTMENT』(以下、メモパ)を想起させるものであった。

 前者は30曲の中からその日の会場やお客さんによって全ての会場でセットリストを変えており、後者も全5カ所で同じセットリストは1つもなく、過去のアルバムツアーを追体験できる構成となっていた。2012年にソロアーティストとしてメジャーデビュー以降に行ってきたホールツアーと、2019年からスタートさせたばかりのライブハウスツアーの両方を味わえる場所となっていた。

 まずバンドメンバーがステージに登場し、客電がついたままの状態で観客に軽く手を振りながら自然体で入ってくる。このさりげなさは全国の小さなライブハウスを巡ったアコースティックライブのスタイルだが、ドラマーが鳴らすカホーンのビートとともに場内は暗転。ステージ上に設置された巨大なスクリーンに白亜のアパートメントが映し出され、玄関からチェック柄の衣装に身を包んだ南條が現れるという演出となっていた。1曲目はベストツアーと同じく「THE MEMORIES APARTMENT」だが、アコースティックアレンジが施されており、同期やダンスもなし。続く「スキップトラベル」はアコースティクツアーで1曲目に歌われていた楽曲で、アップテンポな「believe in myself」を含め、冒頭の3曲はバンドとお客さんのクラップによって豊かなグルーブが作られていた。

 最初のMCでは、5日後に35歳の誕生日を迎える南條に「おめでとう!」という声が飛び交っていた。「ありがとう。でも、ありがとうかどうかわからなくなってきてる」と苦笑いした彼女は「お会いできて嬉しいです。今日は大きいライブハウスだと思ってやります」と挨拶し、『メアパ』と同じく、観客が大きなクラップで盛り上げる「黄昏のスタアライト」と「きみを探しに」を続けて披露。「きみを探しに」では南條に向かい、場内が一体となって〈愛してる!〉と叫ぶのが恒例となっていたが、この日は、マイクを客席に向けず、彼女自身が感謝の気持ちを込めて、〈愛してる〉と3回続けて伝えていたのが印象に残った。

 アコースティックギターとピアノの伴奏のみで歌った1stシングル曲「君が笑む夕暮れ」からは椅子に座っての歌唱。ほぼアコギと歌だけというミニマムな編成で歌った「君のとなり わたしの場所」ではスクリーンに様々なネコの映像が映し出せれ、ほっこりしたムードに。続く、ポップチューン「idc」では、〈愛想笑いなんて容易い魔法よ〉を〈魔法でゲス〉と歌って笑いを誘い、公演のたびに異なる決め台詞のパートでは、「35歳になります!」と声をあげ、場内からは大きな歓声と拍手が沸き起こった。この後のMCでは、「ツアーとは切り離してきたつもりなんですけど、だいぶぐちゃぐちゃですね。反省してます、ステージ上で……」と語っていたが、アコースティックツアーに行けなかった人にとっては、ツアーの集大成を観れる機会となっており、ツアーに行った人にとっても、この日のホールでしかなり得ない映像による演出に新鮮さを感じたはずだ。

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