坂本慎太郎が若手アーティストに与えた影響ーーTempalay、東郷清丸の最新作より考える

東郷清丸『Q曲』

 そんな坂本慎太郎のDNAを感じさせる作品が、今年になっていくつか飛び出してきた。ひとりは東郷清丸。デビュー作『二兆円』では理解を超えるアイデアの量に驚かされたが、新作『Q曲』を聴くと、彼が優れたシンガーソングライターであり、坂本と同じく「本質的にいいもの/素敵なもの」に貪欲な人であることが伝わってくる。曲によってはヒップホップやエレクトロニカの要素を導入するから手法は違うが、どんなサウンドでも下品にならず、かつ、「軽くハメを外して踊れる」音になっていることが重要。一度踊り出せば恍惚とするくらい気持ちがよく、かつ、作り手本人の熱い思いとかメッセージがばっさり切り落とされているところは、限りなく坂本慎太郎に近いと思う。

東郷清丸 - L&V (MusicVideo)
Tempalay『21世紀より愛をこめて』

 さらにはTempalayの最新作『21世紀より愛を込めて』。以前はもっとストレンジなバンドという印象だったが、AAAMYYY(Vo/Syn)加入後はとろけるようなサイケ要素が強まり、音や言葉の選び方もなめらかに、どこか不気味でありながらエレガントである、という方向に変わってきた。ポップなのに底抜けな明るさがなく、脱力気味なのに気持ちよく踊り続けられる。そんなスタンスにも坂本慎太郎の美学と通底するものがある。時に尖ったノイズなども飛び出すところは、さすが、バンドの勢いと若さを感じるのだけれど。

Tempalay "どうしよう" (Official Music Video)

 そう、東郷清丸もTempalayもまだまだ若い。20代の彼らが坂本慎太郎作品からヒントを学び、新しいアプローチを加えてはポップミュージックを面白くしていく。これは、ゆらゆら帝国の存在感に憧れるロックバンドが今もいる、という話とは根本的に違うものだ。まずジャンルがない。不定形ゆえに自由な新時代のポップス。そこで坂本慎太郎のDNAは、のびのびと育ち続けている。

■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

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