キノコホテル マリアンヌ東雲が語る、島崎貴光と追求した踊れる音楽「自分といちばん向きあった」

キノコホテル マリアンヌ東雲が語る、島崎貴光と追求した踊れる音楽「自分といちばん向きあった」

 2017年に創業10周年記念作品として、それまでの5枚のアルバムから選曲した10曲に新たなアレンジを施し録音した6thアルバム『プレイガール大魔境』をリリースしたキノコホテル。端的に言えば再録ベストだが、単なる再録に止まらず発展し続けるバンドのクリエイティビティを遺憾なく発揮し、ピカピカな新曲のようにアップデートをした作品になったが、今回のニューアルバム『マリアンヌの奥儀』は、さらに大胆にキノコホテルとはなんぞやというところを、キャッチーにグルーヴィに、そしてマニアックに踏み込んで作り上げたアルバムとなった。初めて外部のプロデューサーを迎えて、共同プロデュースをした作品だが、タッグを組んだのは意外にもAKB48やSMAP等の曲や、J-POPシーンからアニメ、ゲームとさまざまな音楽を手がけてきた作曲家で音楽プロデューサーの島崎貴光。多彩で、メインストリームのJ-POPの曲作りにも長けた島崎氏と、ニッチな音楽を掛け合わせコアでディープな音楽を生み出すキノコホテルという、一見食い合わせの悪い両者が、がっちり手を組んだ。

 完成したのは、両者の程よい折衷というものなんかではなく、キノコホテルの毒っぽいアクもあり、うっとりするような美メロあり、ゴージャスで妖艶でいて、それでいてキッチュなB級感もプンプンと匂うのに、ポップで高揚感のある作品だ。初めて触れる人にも優しく、それでいてキノコホテルの深いいろはも堪能できる、まさに“奥儀”と呼ぶにふさわしい内容。今回は、アルバムアートワークでも大胆でヌーディな姿を突きつけるマリアンヌ東雲に、今作に至る心境や、制作についての話を聞いた。(吉羽さおり)

誰かと一緒に壊してみたかった

ーー資料のキャッチに「キノコホテル、令和の大改修!?」とありますが。

マリアンヌ東雲(以下、東雲):私が考えたものです(笑)。

ーーぴったりのキャッチです(笑)。今作でのいちばんの変化は、初めて外部プロデューサーである島崎貴光さんを、アルバムの共同プロデュースとして迎えたことですが、これはどんな流れから一緒にやろうとなったのでしょうか。

東雲:もともと彼は、共通の友人を介して10何年以上前からお友達だったんです。当時はまだキノコホテルが存在していないどころか私自身音楽もやっておらず、チャラチャラダラダラと遊んでいた時期で。ただ10何年お会いしていなかったんですが、2、3年前に再会する機会がありまして。2017年の創業10周年公演にお招きしたら観に来てくださって、そこからまた交流がはじまったんです。相談にのってもらったり、バンドや創作のことを飲みながらお話ししたりしていて。その段階で、次のアルバムで思い切って彼と組んでみたらどうだろうか、と思ったんです。必ず、劇的な変化がもたらせるはずで、そういったものを求めていた時期だったんですね。島崎さんはいわゆるどメジャーなフィールドでやっていらっしゃる方で。

ーーアイドルやJ-POPの楽曲を多く手がけている方ですね。

東雲:キノコホテルとは地球の裏と表くらい、フィールドが違う方なんですけど。そういった方と敢えて組むことで、よくある言い方だと化学反応とか、そういったものを期待できるのではという思いがありました。

ーー今までキノコホテルとして、第三者と組んで制作をすることがなかったのは何が大きかったのですか。

東雲:今までは、誰にも何も言われたくない、とにかく指図されるのがいちばんイヤだというのがありました。それが活動を続けていくなかで、自由も結構だけれども、自分という枠組みにとらわれていることに気がついて。マリアンヌ東雲はこうだから、キノコホテルはこうだからと決めつけてしまっていることがとても多いなと気づいたんですね。そこで思考が止まってしまうと、作品もそこで止まってしまうわけで、広がっていかないんですよね。そこに疑問を感じるようになったのが、創業10周年くらいのタイミングだったんです。

ーーなるほど。第三者と組むことで、でき上がっているものを壊される恐怖のようなものはなかったですか。

東雲:まあ、壊されるのはイヤですけど、誰かと一緒に壊してみたかったという感じでしょうかね。あくまで自分が主体であるのは変わらないんです。誰かに委ねるといっても、完全に委ねることは性格的にできないので。うまいこと、一緒に楽しみながらぶっ壊してくれる人は誰かいないかしら? という気持ちでした。

ーー実際、島崎さんとの作業はどんなふうに進んでいたんですか。

東雲:まずは打ち合わせをして、コンセプトを決めていきました。その段階で彼から“ダンスミュージック”、“踊れるもの”というキーワードが出てきて。あとは、デモができたら聴いてもらって意見を聞いたりしていましたね。昨年『有閑スキャンドール』という4曲入り(内1曲がカバー曲)の会場限定盤CDを出したんです。当初はそこから1、2曲ほどリテイクして、ニューアルバムに入れようかしら? くらい軽く考えていたんですけど、島崎さんからいただいた刺激の賜物で、曲の着想が、どんどん溢れてきてしまって。

ーーそうだったんですね。島崎さんからダンスミュージックだという提案をもらったときは、マリアンヌさんとしてはどう感じたんですか。

東雲:いいんじゃない? って思いました。そもそもコンセプトを決めてアルバムを作ったことがなかったんです。なんとなく曲が溜まってきて、ステージで披露して、ぼちぼちかなというタイミングで収録してという流れできていたので。コンセプトを決めるということ自体が新鮮で。踊れる音楽というのは、じつは私もキノコホテルで追求したかったものではあったんですね。今まではなかなか、踊れるような楽曲を作っても、楽器隊の捉え方や解釈の仕方に限界があって、納得のいかない結果になることが多かったんですけど。今回島崎さんと組むことで、メンバーも巻き込んでキノコホテルなりに踊れる音楽に向き合ういいタイミングかもしれないと思いました。

ーー島崎さんから参考曲としていろいろなダンスミュージックも送ってもらったそうですが、どんな曲があったんですか。

東雲:島崎さんからきたのは、本当に誰でも知っているような有名なものばかりだったんです。ジャミロクワイとか。あまりにもメジャー過ぎて私が真面目に通ってこなかったようなものを色々と(笑)。そういうどメジャーなものをいろいろ聴かせてもらって。でも曲作りの参考として聴いてみると、新鮮でしたね。キノコホテルがそういったものを仮に模倣しても絶対ジャミロクワイにはならないし、どうしてもキノコホテルになりますしね。どうなるのだろう、とニヤニヤしながら、聴かせて頂きました。

ーーキノコホテルに敢えてそういうものをぶつけてくるあたり、島崎さんの面白さがありますね。

東雲:わざとそういものをぶつけてきているんですよね。もしかしたら、本当に私がそういうものをまったく知らないと思っていたのかもしれないですけど。でも、自分では思いつかないお題を与えられるのは面白いですよね。そこにどう自分の持ち味や個性をぶつけて、自分のものを作っていくのかという経験がなかったので、取り組み甲斐を感じました。

ーーそういうことで、敢えて今までは封印していた禁じ手をやってみるということもあったんですか。

東雲:島崎さんと組むということは、当然そういう意見なり提案なりがくるっていうことでもあるので。それに対して、自分がどの程度受け入れて、どうやって曲に落とし込んでいくのかという。それはゲームのようで面白かったですね。長年活動してきて、いい意味で丸くなったというのか(笑)。もちろん島崎さんの意見だから耳を傾けようと思えたわけですけども。デビューしたての頃は、とにかく自分の主張を押し通す事で常に頭が一杯でした。誰の指図も受けたくない気持ちが初期の頃はより強くて。レコード会社の方からアドバイスをされても、無視したりしていたので(笑)。

ーーそうでしたか(笑)。

東雲:今にしてみれば、人からアドバイスを頂いたり、一緒に作るというのは、どこかで経験したほうがいいことなのではないかと思いますね。それが自分の場合は、10年も経ってからというタイミングでしたけど。自分的には良かった気がするんです。自分で言うのも変ですけど、ずいぶん素直になりましたよ、私(笑)。

ーー今回の新たな試みについては、メンバー3人はどんなリアクションだったんですか。

東雲:あの人たちは基本的に私に付いて来るだけですから、面白がってましたよ。「支配人が信用できる人なら、大丈夫だと思います」って。実際にレコーディングも楽しそうでしたしね。島崎さんは褒めるのが上手で、プレイヤーに指摘するにしても言い方も優しいし、人をやる気にさせてくれるアプローチをする方なんです。3人も、いつもより気分がよかったんじゃないですかね。普段だと、私が不機嫌になって無言になっちゃって、メンバーもエンジニアさんも無言になるとか、ついつい重たい空気感になることもありましたし(笑)。今回は和やかでしたね。

ーーマリアンヌさん自身も、褒められる機会がたくさんあったのでは。

東雲:曲を作る過程ではありましたね。素直に褒めて頂いてこれでいこうというものもあれば、この展開がもう少しひねってもいいんじゃないかとか、このままだともったいないから少しこうするだけで変わるんじゃなかという。でも基本的には肯定してくれた上でのことなので、理想的な物言いですよね。ただアレンジの方向性では、意見が衝突することもありました。島崎さんは普段、いかに大衆的で世間に受け入れてもらうものを作るか、要はヒットを生む事に重きを置いてお仕事をされている方なので。彼のセオリーではあり得ないような選択肢を私が採ろうとする事も度々ありましたけど、そこはキノコホテルとしてどうしても譲れない部分だったりもして。対話を重ねる中で最終的には彼も、私に決定権を委ねてくれました。そういうふうに意見を戦わせる経験も初めてのことだったので。逆に嬉しかったんです。ここまでキノコホテルのことを考えてくれている人がいるなんてという感じで。

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