フルアルバム『マリアンヌの革命』インタビュー
マリアンヌ東雲が語る、キノコホテルの特殊性「うちを真似したって人気出ない!」
ネオGS、昭和歌謡、ニューウェイブなどを自在に融合させたバンドサウンド、そして、退廃と毒気、エロティシズムと美意識に満ちた歌の世界によって、熱狂的な支持を得ているキノコホテルが約2年ぶりとなるフルアルバム『マリアンヌの革命』を完成させた。「前作(『マリアンヌの呪縛』)の後はバンドを客観的に見てみたかった」というマリアンヌ東雲のコメント通り、この2年間は活動のペースを落とし、バンドとしてのスタイル、方向性を改めて見つめ直す時期だったいうキノコホテル。従来のスタイルと斬新なトライアルが共存した本作を聴けば、このバンドが次のフェーズに達したことを実感してもらえるはずだ。
今回Real Soundではマリアンヌ東雲にインタビュー。この2年間における意識の変化、本作「マリアンヌ革命」のコンセプトについてたっぷりと語っていただいた。(森朋之)
「勝負する気持ちを呼び起こしたいという思いがあった」
ーー約2年ぶりとなるフルアルバム『マリアンヌの革命』がリリースされます。もちろん前作『マリアンヌの呪縛』以降も活動は継続していたわけですが、この2年間はキノコホテルにとってどんな時間でした?
マリアンヌ東雲:いろいろと活動していたけど、わりと密やかだったというか、大々的にメディアに出ることもほとんどなくて。キノコホテルを積極的に追いかけていないと把握できないくらいの規模だったと思いますね。2015年に8周年を迎えたのですが、デビューから全力疾走してきたこともあって、少し自分たちの足を止めてこれまでを振り返ったり、先のことを考えてみるタイミングだったのかも。一歩引いた目線で、冷静にキノコホテルを見渡してみたかったし、あえて頑張りたくない気分でした、去年は。
ーーバンドを俯瞰する時間が必要だった、と。
マリアンヌ東雲:新しいところに踏み切るためにも、いい意味で自分の気持ちをキノコホテルから少しそらしたかったんですね。とはいえ、活動休止を決める程深刻な何かがあったわけでもなく。マネージャーからは「少し休んだら?」と言われたりしましたが、本当に休んでしまったら、もう自分を再び同じ場所に戻すことは出来ないような気がしました。たった一人で一日中キノコの事を考えてばかりいる生活から自分を少し解放してあげる事で、何か見えて来るのではないかと思ったわけです。目の前のことを必死でやり続けていると、自分が何をやりたいのかわからなくなる瞬間もあるので。
ーーキノコホテルはデビュー当初から独創的なスタイルを体現していたバンドですが、それを改めて確認したいという気持ちも?
マリアンヌ東雲:見つめ直したからと言って、何かを変えようと思っていたわけではないんです。根本的なところだったり、巷のバンドとは違う部分というのは、私が仕切っている限り絶対に変わらないし、揺るぎないものがあるので。脱力した時期があったのは、結果的にはムダではなかったと思いますけどね。その間にエネルギーを貯めておいたおかげで、今回のアルバムを作り上げることができたと思っていますから。
ーーアルバムの制作が決まってからは、ギアが入ったと?
マリアンヌ東雲:すぐには入らなかったですね(笑)。アルバムを出そうという話になったのは去年の11月くらいなんですけど、いま言ったように去年は脱力気味に暮らしていたから、曲がぜんぜんなくて。去年の上半期に作った曲はライブ会場限定でリリースした『夜の禁漁区』に入れてしまったし、「一から曲を書かなくちゃいけない」という状況になっていて。年内は自堕落に遊んで、年明けから気持ちを切り替えた感じですね。まずはひとりでデモを作って、それを従業員(メンバー)達に投げてっていう作業が始まったのが今年の2月くらいかしら。録音は5月だったから、なかなかのハイペースですよね。我ながらよくやったと思います。
ーー曲作りのペースが上がってきたきっかけはあるんですか?
マリアンヌ東雲:年が明けて2016年になってから実演(ライブ)が始まったんですが、すごく手応えのあるステージをやれたタイミングがあったんです。そのときに純粋な楽しさを感じたんですよね。やはりこれを辞める気分にはまだまだなれない、って。そのためにはアルバムを何としても成功させなくては。で、「じゃあ、そろそろやりましょうか」というモードになったと記憶しています。
ーー最初の時点からアルバムの全体像はあったんですか?
マリアンヌ東雲:いえ、なかったです。まずはリードになるような曲を作らなくてはいけなかったし、その他の楽曲に関しても「アルバムのどの位置に入るか」という意識を持って制作して。そういう目的を持って曲を作るのは本当に珍しいことなんです。曲作りを進めていくうちに「そうそう、これが自分の仕事だったわ」と戻ってきた感覚もありましたし。「頭がボケちゃうんじゃないかしら」と思うくらいの去年の暮らしから、本来の自分に戻ってきたというか。
ーー「マリアンヌの革命」というタイトルを見ると「支配人とバンドにドラスティックな変化が起きたのでは?」という想像をしてしまいますが…。
マリアンヌ東雲:“革命”というのは自分自身に向けているところが大きいですね。去年の空白の時間を経て、「自分の作品で自分自身を盛り上げたい」ということだったり、勝負する気持ちを呼び起こしたいという思いがあったんです。それなくして、キノコホテルの今後はないんだと、改めて思い知ったんでしょうね。他の誰かが何かをしてくれるわけではないし、とにかく自分自身を鼓舞して、その気にさせるしかなかったので。その結果、内省的というか、自分に内側に向いている感じのアルバムになったと思いますね、トータルとして。いまの自分が何を考えているか、確かめる必要もあったし…。
ーーこのアルバムの制作を通して、音楽家として生まれ変わったのかもしれないですね。
マリアンヌ東雲:確かにReborn的なところはあるかも(笑)。「キノコホテル、まだやってるんだ?」ではなくて、「久々に聴いたらすごくなってた!」って言わせたいですもの。