The Floor、変化を受け入れ明るく踏み出すーー4人体制ラストツアー初日レポ
北海道出身の4人組ロックバンドThe Floorが6月7日にワンマンツアー『Eccentric!! Tour』をスタートした。ツアー初日のこの日は恵比寿LIQUIDROOMでの開催。東京、名古屋、札幌を経て、6月30日の大阪でファイナルを迎える。
また、このツアーをもってギターの永田涼司がバンドを脱退することがすでにアナウンスされており、4人体制としては最後のツアーとあってどんなライブが展開されるのかも注目されていた。
当日はちょうど関東で梅雨入りが発表され、しとしとと雨が降る中でのツアー初日であったが、会場内にはそんな悪天候もお構いなしに多くのファンが詰め寄せ、期待感に溢れる雰囲気が漂っていた。開演するとマイクを持ったササキハヤトが観客へ向かい、「みんな今日はこうやって足元の悪い中で足を運んでくれたわけじゃん。君たちは人類の、世界の宝だ!」と叫ぶと、1曲目「リップサービス」をコール。リズミカルなギターのリフで幕を開けた。
手拍子や合唱などを織り交ぜつつ、演奏中にも「スーパーギターをプレゼント!」「足んねえぞ東京!」などササキは観客への力強い煽りを欠かさない。観客もそれにしっかりと付いていき、会場の温度が1曲ごとに上がっていく。間髪入れずに「Toward Word World」「allright!!!」「Hate you,Cathy」といった勢いある楽曲を繰り出していく。
The Floorの特徴は、疾走感溢れるリズムと力強いギターが重なる王道ロックサウンドだ。そして、どの曲にも厚みのある演奏の中で決して掻き消されることのない高音のギターの存在がある。それが楽曲に独特の叙情的かつドリーミーな感覚をもたらすのだ。
しかし、曲によっては大胆に電子音を取り入れることで“フロア”を揺らすことのできるサウンドを構築したりもする。それが続いて披露した5曲目「Through The Night」、6曲目「イージーエンターテイメント」だ。ダンスビートのこの2曲によって会場の景色はがらりと変わり、一転して“ダンスフロア”と化す。
ここでササキが叫んだ「踊り足りないんじゃないの東京!」という言葉が象徴するように、The Floorの音楽はロックでもありダンスミュージックでもある。近年の多くのロックバンドが備えるハイブリット性を彼らもしっかりと持っているのだ。
ライブ前半を終え、後半に差し掛かったあたりで「Keep On Crying」を披露。しっとりとしたキーボードのラインにより、それまでの駆け抜けるような雰囲気が急に静まり返る。後半はアップテンポの「Lullaby」「レイニー」「マジック」「Wannabe」と流れるように歌い上げると、会場のテンションは最高潮に。曲を終えてフロアの熱がまだ冷めやらぬ中、ギターを爪弾きながらササキはこう話した。「毎回ドキドキなんですよ。不安とかじゃないんですけど、みんな来てくれるのかなって。だから、俺たちの音楽を聴きに来てくれて本当に嬉しいです。ありがとう」
そして、こう続ける。
「これから俺たちはどうなるかわかんないけど、俺はあなたの力になりたくて、少しでも支えになりたくて。あなたのことを支えられる音楽をやり続けたいなって……」
時おりつっかえながらもゆっくりと誠実な言葉を紡いでいくササキの姿勢に、ファンからは優しい拍手が送られた。この瞬間、会場には静かな一体感が生まれていた。
終演へ向けて、数曲披露する。演奏もどこか生き生きとしていて、どのメンバーも心から楽しそうに弾いている姿が印象的だった。鳴り止まない拍手を受けながらメンバーがステージを去る中で、最後に永田が残ってファンの前でこう述べた。
「楽しいなとか、良い曲だなとか、永田めっちゃ緊張してたなとか……なんでもいいんだけど、あなたが今日ここで感じたことは、世界であなただけのものなので、それだけは大切にしてください。俺も今日感じたことは大切にするから」
4人でのラストツアー初日を美しく閉じたこの日。バンドが受け入れようとしている”変化”へ、明るく踏み出しているようなライブであった。
(写真=チズワリナ)
■荻原 梓
88年生まれ。都内でCDを売りながら『クイック・ジャパン』などに記事を寄稿。
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