小野島大の新譜キュレーション
プラッド、アンソニー・ネイプルズ、マトモス……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜12選
ケルンのミニマリスト、ケルシュ(Kölsch)のDJミックスアルバム『Fabric Presents Kölsch』(Fabric)。ミックスものとはいえプレイしている曲はすべて自分の曲、それも新曲なので実質的なニューアルバムと言っていいでしょう。これまで<Kompakt>からリリースされた3枚のアルバム同様、非常にモダンで洗練されたテックハウスを展開しています。カラフルでメロディアスで、時にエモーショナル。起伏に富んだ構成と多彩なアレンジで飽きさせない60分。見事です。
アメリカ・テネシー出身のホリー・ハーンダン(Holly Herndon)の通算4作目、<4AD>からの第2作目が『Proto』(4AD/Beatink)。米スタンフォード大学の博士課程に在籍しながらエクスペリメンタルなエレクトロニックミュージック/メディアアートを追求する才媛です。本作は人工知能(ホーリー自身の赤ん坊のAI)との共演という作品。共有や共感を前提とした定型的なポップミュージックや制度的なダンスミュージックからは100万光年離れた野心的な作品ですが、美しいメロディもあり、斬新なアイデアと突拍子もない展開もあり、未来的だが太古の世界に遡行していくような不可思議なタイム感もとても魅力的で、妙な人懐っこさもあります。おっさんの私は昔のローリー・アンダーソンを思い出しました。ライブ・パフォーマンスが面白い人のようで、ぜひ来日を期待したいところ。
なおアルバムには収録されていませんが、昨年リリースされたジェイリンとの共作曲も強烈です。