小野島大の新譜キュレーション
プラッド、アンソニー・ネイプルズ、マトモス……小野島大が選ぶエレクトロニックな新譜12選
日本人クリエイターによる作品を2つ。神奈川出身の女性DJ/プロデューサーChrumi(クルミ)の1stアルバム 『Quiet Liquor』(SPECTRA)。幼いころからクラシックピアノを学び、やがて電子音楽に興味を持って、ダンスミュージックの世界に転進してきたという26歳。しっかりとした、ですが決して俗っぽくならない情感溢れるメロディと緻密に積み上げられた上モノが美しいテックハウスです。後半になるとジェフ・ミルズばりのBPM140超えの高速ハードコアミニマル(ピアノが絡むのが新鮮)に急展開する構成も気が利いています。極端に偏らないバランスの良さが持ち味で、将来はクラシックの素養を活かして劇伴など活躍の場を広げていきそう。
続いて、名古屋の電子音楽家Yuuya Kunoのソロプロジェクト、ハウス・オブ・テープス(House Of Tapes)。2013年以降8枚ものアルバムリリースを重ねている多作家で、1年2カ月ぶりの新作『Colorful Life』(PROGRESSIVE FOrM)(PROGRESSIVE FOrM)は9枚目のアルバムです。非常に音楽的な幅が広くアレンジのバリエーションも豊かで、叙情的なエレクトロニカやアンビエント、テックハウスから、変則ビートが強烈な曲、ロック的な疾走感を持った曲など、いろんなタイプの曲が収められ飽きさせません。思いついたアイデアを片っ端からぶち込んだような彩り豊かで盛りだくさんの内容は、作り手のサービス精神を感じます。
ベテランの作品を2つ。英国テクノ〜エレクトロニカのベテラン、プラッド(Plaid)の『Polymer』(Warp/Beat)。堅牢にして緻密、磨き抜かれた音色、アレンジの洗練、揺るぎのない個性とシンメトリカルな美しさ。前身であるブラック・ドッグ(The Black Dog)から数えてキャリア30年の古株ですが、ある種の瑞々しい新鮮さも保っているのは驚くべきことです。これまで以上にエモーショナルでドラマティック、かつ躍動的で、クライマックスの3曲の盛り上がりは素晴らしい。彼らの最高傑作と言えます。
デトロイトテクノ第二世代の代表格ジョン・ベルトラン(John Beltran)の新作『Hallo Androiden』は、福岡を拠点とするレーベル<Blue Arts Music>からのリリースです。美しく淡く叙情的でアトモスフェリックなサウンドは深みと奥行きがあって、抜群の完成度。素晴らしく感動的なアルバムで、長い彼のキャリアでも特筆すべき作品と感じました。
なお、石野卓球が6月12日から5週連続で新曲をリリース中で、これを書いている時点で2曲が配信済ですが、いずれ1枚のアルバムにまとめられるとのことなので、その時に改めて取り上げることにします。
ではまた次回。
■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebook/Twitter