lyrical school、再びメジャーデビューへ 確立したキャラクター性と進化したパフォーマンスを分析
また「ライブアルバム」という映像を伴わない音源だけでパッケージを成立させているのは、彼女たちのパフォーマンス力の高さと、それぞれのキャラクター性の確立による部分も大きいだろう。
まず現在のグループにおいて最もキャリアの長いminanのユーティリティプレイヤーとしての安定感。キュートからハードまで使い分ける表情豊かなラップの巧みさは、リリスク作品の他にも、エイブルのウェブCM『#美化すたぐらむ』のラップにも起用されるなど、外側への訴求力と需要を含めた幅の広さを持つ。そして『"lyrical school tour 2018 "WORLD'S END"』に収録されたソロ「baby blue」や、スチャダラパーのBoseとDJ SHINCO、そしてかせきさいだぁが制作に参加した「常夏リターン」でのフックパートの「立ち方」など、ボーカリストとしての才もこれまで以上に印象に残る。線は細いが透明感のある、彼女がそもそも持つ「楽器としての声の良さ」が開花しているのだ(それは現在パーソナリティを務める『lyrical school minanの Let's チルアウト!』(FM GUNMA)でも感じられる)。ソロとして7月にリリースされる『minan / No More』ではよりその部分がより明確に押し出されるだろう。
また、同じようにユーティリティプレイヤーとして活躍するのがyuuだ。彼女も安定したラップとボーカルによって、リリスク楽曲の安定感を担保する存在である。王道のラップらしい強いフロウも、アイドルらしい可愛げなフロウもきちんと乗りこなし、とにかく安定したラップは安心感すら感じさせる。そしてボーカリストとしての部分は、「DANCE WITH YOU」での落ちサビの独唱や、「Hey!Adamski!」でのminanとのユニゾンなど、楽曲の要所を締めることが多く、制作陣からの信用が高いことを伺わせる。また声質的にも強さとやや子供っぽいような塩梅が同居しており、その不思議な声質が作品のアクセントとなっている部分も多く、楽曲の中で目立つことも多い。ダンスに関してもアイドルっぽさも、基礎のあるダンサーとしての地力もあり、パフォーマンスとしても舞台をしっかりと締める存在である。
yuuと共にリリスクのオーディションを受け合格し、「Hey!Adamski!」などでyuuと共にコラボダンスを見せるrisanoは、そのパフォーマーとしての才をより明確にしている。やはりライブを初見した関係者などに話を聞くと、印象に残るのはrisanoだと話す。それだけ彼女のアグレッシブを超えて、もはや野放図とも言える、ステージをとにかく縦横無尽に駆け巡りながらダンスする彼女の姿はとにかく記憶に残る。しかし、それが単なるハチャメチャではなく、長期にわたるアメリカへのダンス留学を経た上であり、その経験に裏打ちされたパフォーマンスであることは、決して「雑な悪目立ち」にならないところからも感じさせられる。またリリスクはアイドルでありながらも、「振付」を現体制ではあまり作品に落とし込んではおらず、その部分もフリーにダンスできる彼女にとって良い方向に作用しているだろう。ラップやボーカルに関しても、そのハスキーな声は非常に特徴的だ。
yuu、risanoと共に新加入したhinakoは、ある意味ではアプローチとして「アイドルらしからぬ」部分もあるリリスクにとって、「アイドル性」を明確に担保し、打ち出している存在である。『"lyrical school tour 2018 "WORLD'S END"』では、yuuと共に王道のアイドルソングを感じさせる「ブランニューガール」を披露したのだが、これまた王道のアイドルファッションとも言える白いシャツと赤いテニススカートに身を包み、ファンへの投げキッスや指差しなど、これこそ王道としか言いようがないアイドルムーブを見せたときの彼女の活き活きぶりは、彼女の想定するアイドル像を体現したかのようで、非常に興味深いものがあった。また、そのラップにおける声質もキュートな方向性が強く、タフなパフォーマンス性が強いリリスクにおいて、リスナーの「保護欲」や「アイドル欲」を刺激する存在なのかもしれない(とはいえ「シャープペンシル feat. SUSHIBOYS」でのソロパートなどのラップは非常にタイトなのだが)。
そしてリリスクの「ラップ性」を最も担保しているのはhimeに間違いないだろう。HIPHOPに関する事柄を執筆の中心にしている筆者でも感心するほどの、というかちょっと引くほどのラップリスナーである彼女。そのラップに対する真摯な思い、愛情、それを自らのモノにしたいという願望が、現在のリリスク作品のもつ、ポップミュージックとしてのリスナーフレンドリー性と、HIPHOPミュージックとしての構築性の高さを、両立させていることに通じている。例えばTRAPビートで構成された「Cookin' feat. Young Hastle」は、ビート的には非常にハードであり、いわゆるアイドルソングとは全く感触が違う、ストリート性を強く感じさせるものだ。しかし、そういった楽曲を「アイドル」が披露しても浮ついた感触を感じさせずに成立させ、そこに「説得力」を持たせているのは、彼女のラップスキルの高さと、そういったシーンをしっかりとリスペクトしている事実による部分が大きいと思う。そういったスキル面で言えば、現体制でのメジャーリリース第一弾となる「Last Dance」でも、隙間を必要とする今様のTRAPフロウをしっかりと形にし、ラッパーとしてのスキルの吸収力の高さを作品に落とし込む。しかし、そういったラッパー的側面だけではなく、「Tokyo Burning」での細かく刻んでいく歌フロウに込められたガーリーさであったり、パフォーマンスのキュートさにおいても、しっかりとアイドルとしての存在感が表現され、その意味でも(これはメンバー全員に言えることだが)、「ラップ」「アイドル」という2つの存在を、しっかりと止揚させる象徴ともいえるだろう。
その意味においても「HIPHOPアイドルグループ」という看板をしっかりと強化しながら、その路線を確かなものにしている彼女たち。すでに発表されている3カヶ月連続シングルと9月11日にリリースされるアルバム『BE KIND REWIND』のリリースでどういった新基軸をこの体制の上で押し出していくのか。そしてそれに伴ったパフォーマンスの進化は、と考えると、その動向には興味を覚えざるを得ない。
(文=高木 “JET” 晋一郎)