米津玄師「海の幽霊」レビュー:想像を駆り立てる“声”と“サウンド”の革新性

米津玄師「海の幽霊」レビュー

 この曲でもうひとつ重要な要素が、管弦楽のサウンドだ。中心になっているのは、変調されたボーカルと硬質なビート。しかし、そうしたエレクトロニックなサウンドの質感と違和感なく地続きで響くオーケストラが、「海の幽霊」を飛び抜けてスケールが大きく、ドラマチックなものにしている。

 たとえば、サビへと感情の動きを駆り立てるストリングスのグリッサンドや、ゆったりとしながらも緊張感を失わないグルーヴをつくりだす切れ味の鋭いクレッシェンド。あるいは、コントラバスならではの、わずかに揺らぎを持ったふくよかな低域。味わい深いディテールを挙げればきりがない。奥行きを残した録音や、豊かなダイナミクス(音量の大小の差)を感じさせる仕上げは、映画館の音響でいっそう迫力を持って響くはずだ。

「海の幽霊」Music Video

 願わくは、今回のような意欲的なサウンドをアルバムのスケールで展開する米津の音楽を聴いてみたい。インディーズ時代の1stアルバム『diorama』のようにひとつの世界を描き出す一枚を、メジャーデビューから『BOOTLEG』までの3枚のアルバムを経て「海の幽霊」に至ったいまの米津がつくったらどうなるだろう。この曲は、そういう想像を駆り立てる一曲でもある。

(メイン写真=山田智和)

■imdkm
ブロガー。1989年生まれ。山形の片隅で音楽について調べたり考えたりするのを趣味とする。
ブログ「ただの風邪。」

米津玄師「海の幽霊」Ⓒ五十嵐大介/小学館

■リリース情報
『海の幽霊』
配信日:6月3日(月)

■映画情報
『海獣の子供』
6月7日(金)全国ロードショー
原作:五十嵐大介『海獣の子供』(小学館 IKKICOMIX刊)
キャスト:芦田愛菜、石橋陽彩、浦上晟周、森崎ウィン、稲垣吾郎、蒼井優、渡辺徹、田中泯、富司純子
音楽:久石譲
主題歌:米津玄師「海の幽霊」

映画公式サイト
映画公式Twitter

米津玄師 公式サイト
米津玄師 公式Twitter

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