アンダーソン・パーク、アリ・レノックス……高橋芳朗が選ぶR&B注目アルバム4選
Vampire Weekendの新作『Father of the Bride』で大々的にフィーチャーされるなど、ここ最近はスティーヴ・レイシーの活躍が目立っているThe Internetだが、そんな状況のなかマット・マーシャンズが2ndアルバム『The Last Party』を発表。これがローファイ&メロウなサイケデリックソウルの傑作といえる仕上がりになっている。スリック・リック「Children's Story」を参照したと思われる「Movin' On」、マック・デマルコが制作に関与したN.E.R.D.マナーのファンクジャム「Pony Fly」、ブラジリアンフィールあふれる「Southern Isolation 2」など、2曲でフィーチャーされているスティーヴ・レイシーの2017年のEP『Steve Lacy's Demo』をさらに拡張したような全8曲。共にオマー・アポロの客演曲があるからというわけではないが、同時期に出たStill WoozyのEP『Lately』に通じる淡いレイドバック感が心地よい。
J・コール率いる<ドリームヴィル>所属のアリ・レノックスが2016年のメジャーデビューEP『Pho』から2年半を経てようやくフルアルバム『Shea Butter Baby』のリリースに漕ぎ着けた。これが長らく待たされた甲斐のある充実ぶりで、エラ・フィッツジェラルドやエリカ・バドゥの影響を自認する彼女のジャジーな魅力を尊重しながらも、ミニー・リパートン~ダイアナ・ロス風のセンシュアルなソウルフィーリングも同居させた制作陣の絶妙なバランス感覚が素晴らしい。バスタ・ライムス「Woo-Hah!! Got You All in Check」やフェイス・エヴァンス「I Just Can't」でおなじみガルト・マクダーモット「Space」をサンプリングした「BMO」、Mndsgn「Land of Passion」やFlamingosis「Riding the L」で引用されたヒューバート・ロウズ「Land of Passion」使いの「New Apartment」など、アリの90年代R&Bへの憧憬をうかがわせるネタ物の楽曲も良いアクセントを生んでいる。冒頭の「Chicago Boy」を含む3曲に参加しているトランペット奏者、テオ・クロカーの存在感も見逃せないだろう(彼は「Whipped Cream」のソングライティングにも関与している)。コズ『Effected』、バス『Milky Way』、J.I.D『DiCaprio 2』、そして本作と、昨年からコンスタントに良作を供給し続けている<ドリームヴィル>の堅調ぶりはもっと評価されていい。
■高橋芳朗
1969年生まれ。東京都港区出身。ヒップホップ誌『blast』の編集を経て、2002年からフリーの音楽ジャーナリストに。Eminem、JAY-Z、カニエ・ウェスト、Beastie Boysらのオフィシャル取材の傍ら、マイケル・ジャクソンや星野源などライナーノーツも多数執筆。共著に『ブラスト公論 誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない』や 『R&B馬鹿リリック大行進~本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界~』など。2011年からは活動の場をラジオに広げ、『高橋芳朗 HAPPY SAD』『高橋芳朗 星影JUKEBOX』『ザ・トップ5』(すべてTBSラジオ)などでパーソナリティーを担当。現在はTBSラジオの昼ワイド『ジェーン・スー 生活は踊る』の選曲も手掛けている。