アルバム『素通り』インタビュー
“レペゼン春日部”のラッパー 崇勲、自問自答とユーモア織り交ぜる独自の表現スタイルを語る
生きていれば、何が起きようが全てが「武器」になる
ーー前作と比べてどこが変わったとご自身では思いますか?
崇勲:前作は割と攻撃的な要素があったんですけど、今回はほとんどなくて。気持ち的にもストレスが減って、優しくなっているんだろうなって、書き終えてみて素直に思いましたね。誰かを腐すような歌詞を書きたい気分ではなかったというか。
ーー「EXTENSION」では〈HIPHOPは怒りと痛みの地雷 俺は踏まない〉と歌っています。
崇勲:そう、派手に見せるためにわざわざ地雷を踏んで、怒りや痛みを強調させるようなやり方はしたくないなと。もっとスルスルと、マイペースに生きていきますよっていう意思表明でもありますね。流行りとかではない、誰も踏み入れていないような隙間を狙って言葉を作りたいというか。要は「俺は俺」ということです。
ーー「WAYBACK」は、地元愛と、東京への複雑な思いが描かれていますよね。
崇勲:未だに東京は苦手ですね。渋谷のセンター街とか一歩も入りたくない(笑)。新宿、渋谷、池袋は本当に行きたくないです。単純に人が多いし、みんなチャラチャラしていて自分とは合わない街だなと。3月まで週一で、東京に来てラジオ収録をやっていたんですけど、19時前にラジオの入っているビルの地下駐車場に入って、20時に収録が終わるとそのまま駐車場に戻って春日部までまっすぐ帰ってました(笑)。だんだん建物の高さが低くなってきて、ようやく春日部の街並みが見えてくると本当に落ち着きますね。ここ数年で、さらに地元が好きになりましたね。
ーーアルバムのタイトル同様、東京を「素通り」していたと(笑)。
崇勲:タイトルの由来はそれもあるし、自分自身があまり人をアテにしない、アテにしちゃいけないという意味の「素通り」でもあります。今、MCバトルがブームと言われているけど、それで得ているプロップスなんて空っぽだぞ、そこをアテにしちゃダメだぞっていう、自分への戒めも含めていますね。
ーー「人をアテにしない」という感覚は昔からあるのですか?
崇勲:それこそ中学生くらいから持っていた感覚かもしれない。仲間内でも「自分のことは自分でケツを拭け」というしきたりがありましたし。『素通り』というタイトルは3年くらい前から考えていたんですけど、ダンジョンとかで名前がバーっと知れ渡っていく現象を見たときでしたね。「次のアルバムタイトルは『素通り』にしよう」って。
ーー個人的には「ラストシーン」が込み上げるものがありました。バックトラックもアルバムの中で異彩を放っているし、歌詞も崇勲さんの死生観が歌われていますよね。
崇勲:トラックメイカーのMichitaさんから、「10分くらいで作ったビートがある」って言われて。聴いてみたらすごく良くて。歌詞は、昨年事故で死んでしまった第三の唇のメンバーの一人について歌っています。彼の通夜に行ったとき、ご遺族が俺の「FLASH」という曲をずっと流してくれていたんですよね。そういうこともあったし、人生で一番笑わせてくれた友人だったので、彼への思いをカタチにして残したいと思っていた時に、このトラックをもらったんです。
ーー「MATCHSTICK」も「死」がテーマの曲ですか?
崇勲:この曲はCHICO CARLITOというラッパーが、先にフックの歌詞をつけて送ってきたんです。しかも内容が、偶然にもその死んだ第三の唇のメンバーへの追悼で。CHICOも彼の通夜に、沖縄から駆けつけるくらい仲が良かったので、奇しくも被ってしまった(笑)。ただ、送られてきたメロディも歌詞もすごく良かったので、なるべく「ラストシーン」とはニュアンスを変えた方向性に、俺の歌詞で調整していきました。同じ人間に向けた曲を2つ並べても仕方ないので(笑)、これはもう少し広い意味での「命」について歌っています。CHICOにダメ出し食らいながら、何度も歌詞を書き直してようやく完成しましたね。
ーー 「Over Time」も、崇勲さんの「遺書」のようにさえ読み取れる歌詞で、一瞬ドキッとしました。
崇勲:これもMichitaさんから送ってもらったビートを使っています。聴いた瞬間に、「これはアルバム最後の曲だな」って思いました。「すごい曲が書けるかもしれない」と。しかも一瞬で歌詞が書けるということが、トラックを聴いてすぐ分かったんですよ。なので、この曲以外のレコーディングが全て終わってから、最後に歌詞を書いてすぐ録ったんです。そういう意味では、ちょっとフリースタイルに近いところはありましたね。
出来上がったトラックをMichitaさんに送ったら、電話がかかってきて。「とても気に入ったよ」という、ありがたい言葉までいただきました。自分でもすごく気に入っている曲ですね。アルバム自体が、この「Over Time」に向けての壮大な前フリになっているようにも思います。
ーー〈これが最後の詞になるかも 立ち去る準備出来てるかも〉や〈何処に居ても俺は探す 必ず笑う居場所探す〉など、意味深なラインが並んでいますよね。
崇勲:立ち去る準備は常に出来ていますよ、嫌いなラッパー多いし(笑)。クラブとか言っても、しかめっ面のラッパーばかりじゃないですか。「笑っている方が楽しいのにな」って、いつも思いながら見ていたんですよ。「何しに来てるんだろうな、こいつらは」って(笑)。
ーーシリアスに寄りすぎず、常にユーモア精神を持っているのが崇勲さんのアティチュードなんでしょうね。
崇勲:嫌なことがあっても、基本「我慢する」というよりは「受け流す」というか。これ、ネタとして持ち帰ったら地元で笑い話になるぞとか、そうやっていつも考えているんですよね。
ーー「道しるべ」で歌っている、〈不満を抱えろ 震えるだろうけど無くなった時に武器になるまでよ〉という部分がまさにそうですよね。
崇勲:生きていれば、何が起きようが全てが「武器」になると思うんですよね。楽しいことでも、嬉しいことでも、辛いことでもなんでも。
ーー本作を作り終えて、何か新たな展望などは見えてきていますか?
崇勲:いや、何にもなくて。とりあえず日本一周したいです(笑)。あと、作り終えた時はやりきった感があったんですけど、そこからこの数カ月の間でまたストレスがちょっとずつ溜まってきているので、まだまだ曲は作れそうだなって思っています。
(取材・文=黒田隆憲/写真=はぎひさこ)
■商品情報
5月29日(水)発売
¥2,484
01. 2015 [Pro. by LIBRO, Scratched by DJ RIND]
02. EXTENSION [Pro. by Watman Beginz]
03. WAYBACK [Pro. by J-TARO]
04. 素通り [Pro. by J-TARO]
05. 歌舞いてざんまい (feat. 押忍マン) [Pro. by J-TARO]
06. 血と骨 [Pro. by CARREC]
07. ラストシーン [Pro. by Michita]
08. SNPIKNBNWS (feat. 第三の唇) [Pro. by DJ RIND]
09. 道しるべ [Pro. by Michita]
10. MATCHSTICK (feat. CHICO CARLITO) [Pro. by Maria Segawa(from TAG DOCK)]
11. Over Time [Pro. by Michita]