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アルバム『パノラマ街道まっしぐら』インタビュー

姫乃たまが語る、“コミュニケーションツール”としての音楽活動「人のためになりたい」

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 2019年4月30日に開催されたワンマンライブ(東京・渋谷区文化総合センター大和田さくらホール)をもって地下アイドルを卒業した姫乃たま。10年間に及んだ地下アイドルの活動の集大成であり、この先の彼女の方向性を予見しているのが、4月24日にリリースされたアルバム『パノラマ街道まっしぐら』だ。タイトル曲「パノラマ街道まっしぐら」を手がけた直枝政広(カーネーション)を筆頭に、彼女の音楽活動を支えてきた町あかり、STX、入江陽、さらに君島大空、長谷川白紙といった気鋭のクリエイターが参加した本作は、AOR、EDM、ニューウェイブ、ギターポップ、現代音楽などを自由に取り込みながら、独唱的にしてハイブリッドなポップミュージックを体現した作品に仕上がっている。

 このアルバムについて姫乃は「アルバム『パノラマ街道まっしぐら』は、地下アイドルとして最後の日々を過ごす私が、地下アイドルではなくなった未来を掴もうとする過程でできあがった音源です」「すべての曲がばらばらで全く異なる形をしていますが、いまここに生きている未完成な自分を受け入れながら、それでもどこかへ向かっていこうとするテーマは共通しています」とコメント。2019年の最先端のポップと“2019年の姫乃たま”を同時に表現した本作について、彼女自身にたっぷりと語ってもらった。(森朋之)

今いる場所から次の場所に進んでいく 

ーーアルバム『パノラマ街道まっしぐら』、最高でした。2019年の日本におけるもっとも質の高いポップアルバムのひとつだなと。

姫乃たま(以下、姫乃):なーんと!

ーーはい。個人的な趣味にも完全に合っていて、ずっと聴いてます。

姫乃:ありがとうございます。ふだんはどんなものを聴いてるんですか?

ーーいろいろ聴きますけど、もともとは80年代のニューウェイブやシティポップから始まって……。

姫乃:あー、私の曲を気に入ってくれる人ってどんな音楽が好きなのか昔から不思議なんです。でも「ニューウェイブっぽい」ってすごい言われるんですよ。ニューウェイブってよくわからないんですけど、音楽ジャンルというより、カルチャー的な意味合いが強いんですか? 

ーーもともとは70年代後半ポストパンクから派生したジャンルだと思いますけど、確かに定義は曖昧ですよね。80年代の段階で、ムーンライダーズも戸川純もパール兄弟も“ニューウェイブ”と言われてたくらいだから。

姫乃:一言でジャンルを言い表せないっていうのは、私もよく言われていて。活動の初期は地下アイドルらしいアニメソングみたいな曲調のポップソングにこだわっていたんですけど、ディスクユニオンで制作するようになってから、急速にジャンルが形容しづらくなってきたんですよね。

ーー今回のアルバムもジャンルは特定できないですよね。完成までにはかなり紆余曲折があったそうですが、制作が始まった段階ではどんな設計図があったんですか?

姫乃:設計図みたいなものはなくて。もともと私には(音楽的に)やりたいことがなくて、ディスクユニオンの発売担当者にアイデアをもらいながら制作してきたんですけど、その人もしっかり計画を練るタイプではなくて、お互いに行き当たりばったりだったんです。なのでコンセプトはなかったんですけど、地下アイドルを卒業することは決めていたので、今回に限ってはこれまでの集大成かつ次に進めるような作品になったらいいですねというお話はしていました。ただ、これまでは目の前にあるアイデアを転がしてきたので、前に進んでいくための制作はしたことがなくて、「どうやって作ったらいいかわからない」みたいになって、制作が停滞してしまったんですよね。それでビクターに移った感じなんですよ。それでも最後の最後まで「どうしたらいいかわからない」という状況でした。

ーー分岐点になる作品だったんですね、いろんな意味で。

姫乃:そうですね。自分自身で音源のコンセプトを考え続けたのは初めてでした。私のなかで一貫していたのは、“今いる場所から次の場所に進んでいく”ということ。私にできるのは作詞だけなので、作曲家さんたちには、「なるべくポップで華やかな曲にしたいです」と伝えていました。私が一緒に制作したいと思った人たちなので、たぶん王道のポップを目指して、だんだん最終的にズレてちょうどよくなるかなと思って(笑)。

ーーもともとポップスは好きで聴いていたんですよね?

姫乃:いや、ヒップホップばっかりですね。父親の趣味で小さい頃はThe BeatlesやQUEENを聴かされていました。夕食のとき、フレディー・マーキュリーが紗倉まなちゃんのAVデビュー作のパッケージみたいなレオタード姿で歌っている映像が流れてたり。

 「夕飯どきにこれはいかがなものか?」と思ってたんですけど、映画(『ボヘミアン・ラプソディ』)にまったく同じようなシーンがあって嬉しかったです。QUEENがテレビに出てたときに、ディレクターから「夕飯どきだぞ」ってカメラを外されるっていう。

ーー(笑)。

姫乃:QUEENは好きです。でも初めて自分で能動的に聴いていたのはTHE BLUE HEARTSとTHE COLLECTORSで、あとはずっとヒップホップです。洋楽だと2PACとかスヌープ・ドッグですけど、主に日本語のラップが好きで。いまは口ロロや降神さんも聴いていますが、小学校から高校くらいまではゴリゴリのラップばっかりでした。妄走族とか漢(a.k.a. GAMI)さんとかダースレイダーさんとか。高校生になってから小島麻由美さんや、ピチカート・ファイヴ、フィッシュマンズとかを聴くようになったんですけど、それまではポップスってあまり聴いてなかったかもしれません。

ーーなるほど。今回のアルバムで“いいポップス”を意識したというのは、地下アイドル卒業後のアーティストとしての活動を見据えていたということなんですか……?

姫乃:次の肩書はまだ決まってないんですよ。どうしようかな……。でもアーティスト宣言だけは避けたいですね。アーティストって定義が曖昧だから、ものすごく乱暴にアイドルもアーティストとして括ることができちゃうじゃないですか。その上であえて自らアーティスト宣言するっていうのは、曲調を変えるとか、そういう活動方針の変更もあるかもしれないけど、主にアイドル的なファンとの交流を省いていきますっていう決意表明になると思うんです。それはそれでいいんですけど、それってアイドルファンじゃない層をターゲットにしたいからそうするのに、肝心の一般層からしたら急によく知らないアイドルに「アーティストです」って言われてよくわからなくなっちゃうんですよね。そういうアイドルが持つ文脈の複雑さ以前に、もともと私は自分をアーティストだとも思っていないので……。これまで地下アイドルっていう曖昧だったジャンルについて10年間ずっと向き合ってきたので、アーティストなんか名乗ったらまたアーティストについて考えないといけなくなるじゃないですか(笑)。私ももう26歳なので、生きているひとりの人間としての自分といい加減向き合いたいんですよ。今回のアルバムを作ってるときも、自分自身とファンのことを地下アイドルとファンじゃなくて、人間同士としてずっと考えてました。

ーーアルバム自体がコミュニケーションのツール。

姫乃:私の仕事は主に歌うことと文章を書くことなんですけど、ライブで歌っている時だけが世界とコミュニケーションを取っている時間なんです。文章は何かを伝えているように見えて、書き終わった時点で完結しちゃってる側面が強いんですよね。今回のアルバムも、外界とつながって、人として生きていくために、いまの自分の立ち位置を一度立ち止まって、振り返って、作詞して考えを形にしました。作業自体は現在の自分を見つめることなんですけど、未来を見据えるためにも、音源を作って歌詞を書くのは欠かせない作業なんです。

ーーアルバムを完成させたことで、姫乃さん自身のことも整理できた?

姫乃:かなりできたように思います。特に地下アイドルとして自分自身に書く歌詞はやり尽くしたかなと。卒業ソング(「卒業式では泣かなかった」)を書けたことも大きかったし、全体を通して、ファンに特化して歌詞を書いたんですよ。去年の夏に卒業宣言をした後はファンのコミュニティが荒れてしまって、それをどう持ち直すかもずっと課題で。制作中も「どうしてあげたらいいのかな」ってずっと考えていたんです。これまでもファンのことを考えて書いてはいたんだけど、「ライブでどうコール&レスポンスするか」というアイドル的な技術にこだわっていたので、従来の歌詞のような目に見えるわかりやすさではなくて、ファンと私がこれからどう生きていくかを重視して書きました。作詞もやり尽くせたし、地下アイドルとしてもすごくいい時期に活動できたなって思います。2009年に活動を始めて、AKB48をきっかけにアイドルが社会現象になって。それ以前の地下アイドルはアキバ系カルチャーの一種で、非常にコアなシーンだったんですけど、アイドル自体の活動範囲と間口が広がったことでサブカルチャーと交差するようになっておもしろい状況になりました。いまはアイドルブームも下火と言われますが、ブームを渦中でひと波見られたのは貴重な体験だったと思います。

ーー『パノラマ街道まっしぐら』には、いままでとは違うリスナーとのコミュニケーションの回路になるのでは?

姫乃:ものすごく評判いいんですよ、かつてないくらい。いままでの音源は評価してもらえるまでのタイムラグが大きくて、1年とか2年経ってじわじわ評価されることが多かったんです。その点で今回はすごく即効性があるし、こんなに反響があるのは初めてなので、しかも概ね好評でビックリしてます。でも何より興奮したのが、「長所はスーパーネガティブ!」のMVを公開したら、アンチコメントっていうのか、「なんだこの素人っぽいのは!」みたいな書き込みがあって。いままでそういうことはなかった、というより全員それをわかったうえで楽しむコンテンツなので、姫乃たまに素人っぽいって言うのは、「ナマケモノって怠惰ですね!」って言うのと同じことなんですよ。だから、こんなピュアな一般の層にも届いてる……と衝撃を受けました。私の音楽をきっかけにして、サブカルチャーや地下アイドルを知って人生が救われる中学生とか出てきたら嬉しいな(笑)。自分が売れるとかははなからどうでもよくて、おまけに10年間、一生分いろんな人にかわいがってもらったので人のためになりたいです。「人のためになりたい」という欲望は人間だれしもあると思うんですけど、私はそれがかなり強いほうなので。

      

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