aiko、岸田繁、清水翔太……FM802キャンペーンソング、過去作から最新作まで作風を分析

 そして今年のキャンペーンソングとなったのは、aiko作詞作曲による「Radio Darlings」名義の「メロンソーダ」だ。放送開始直後からSNSでは、「他の人が歌ってもaikoと分かる」「歌詞が絶妙」「本気のaiko」と大反響を呼んでいる。それもそのはず、Aメロ2小節目、最初のコードチェンジとメロディの位置から「それ」と分かるaiko節で(もっと言えば、イントロに乗せたフェイクがaikoそのもの)、その後も〈マフラーを巻くんだ〉の部分で不協和音スレスレのコードを当ててハッとさせる。

FM802 × TSUTAYA ACCESS! 『メロンソーダ』Radio Darlings Music Video

 サビの後半、〈あぁこういうの何て言うんだっけ〉での半音下降していくベースライン、満を辞して登場したaiko本人の歌う、〈ねぇ 今日も少し不安だよ〉の部分の(「ボーイフレンド」などでもお馴染み)ブルージーな節回しと「aiko節」で畳み掛けたかと思えば、ファルセットの応酬でトドメを刺す大サビ。しかも2番では、KANと秦 基博のコンビによるゴスペル風のコーラスが、主旋律とハモったり掛け合いになったりしながら複雑に絡み合う。一聴すると、すんなり入ってくる耳心地の良い楽曲なのだが、聴き込むほどに気づく凝りに凝ったソングライティングには舌を巻くばかりだ。

 今年12年目を迎える『ACCESSキャンペーン』だが、実は女性アーティストが作詞作曲を担当するのはaikoが初。それもあってか(あるいは昨今の時勢を踏まえてか)、参加する男性シンガーも中性的な声の持ち主が起用され、全体的にフェミニンなムードをたたえている。もちろん、「aiko直系」ともいえる上白石や、アイコニックな橋本の歌声も楽曲に彩りを添え、〈メロンソーダがビールになってハンバーガーはハンバーガーのまま〉、〈他愛のない事はいつかのとてつもない幸せの積み重ね〉など、春の「出会いと別れ」をテーマに書かれた歌詞にはキラーフレーズがぎっしりと詰め込まれている。

 こうして歴代のキャンペーンソングを1曲ずつ聴きこんでみると、コンポーザーそれぞれの作家性や番組への思い入れが如実に出ており、複数のシンガーが歌うことによってその特徴も浮き彫りになっているのがよく分かる。J-POPシーンの粋を集めた名曲の宝庫『ACCESSキャンペーン』から、今後どんな名曲が生み出されるのか楽しみでならない。

■黒田隆憲
ライター、カメラマン、DJ。90年代後半にロックバンドCOKEBERRYでメジャー・デビュー。山下達郎の『サンデー・ソングブック』で紹介され話題に。ライターとしては、スタジオワークの経験を活かし、楽器や機材に精通した文章に定評がある。2013年には、世界で唯一の「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン公認カメラマン」として世界各地で撮影をおこなった。主な共著に『シューゲイザー・ディスクガイド』『ビートルズの遺伝子ディスクガイド』、著著に『プライベート・スタジオ作曲術』『マイ・ブラッディ・ヴァレンタインこそはすべて』『メロディがひらめくとき』など。

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