小野島大の新譜キュレーション 第20回
リアン・トレナー、ケミカル、ボグダン・ラチンスキー……小野島大のエレクトロニックな新譜6選
英国のプロデューサーであるエミール・フェイシーによるプロジェクト・Plant43の新作『Three Dimentions』(Central Processing Unit)。メロディアスでコズミックな叙情性とクールでマシーナリーなエレクトロファンクネスが合体した重厚かつドラマティックなテクノ。Kraftwerkのスピリットをベースミュージック以降の音響感覚で今に蘇らせたような音楽で、本作の緻密なサウンドプロダクションの完成度は、この才人の作品中でも一、二を争うでしょう。
在ハワイの日本人ラッパー・Shing02とトラックメイカー・SPIN MASTER A-1によるコラボアルバム『246911』(ULTRA-VYBE, INC.)。Shing02にとっては11年ぶりの日本語リリックのアルバムです。和楽器やお囃子など日本の伝統音楽のサンプルを重ねビートをつけてラップするという、いわばファンクやジャズの代わりに和モノのネタをヒップホップの手法でもって構成した作品で、単にヒップホップに和モノのテイストを付け加えたというだけでなく、もっと深いところで日本の伝統音楽、伝統芸能とヒップホップが融合した、きわめて独創的な音楽と感じました。
タイトルは「二シムクサムライ=西向く侍」という意味で、つまり西洋文化と日本人の関係、ひいてはヒップホップという西洋音楽に対して、いち日本人がどういうアイデンティティをもって取り組むか、というテーマの作品と言えるでしょう。なかでも際だっているのがShing02の書くリリックとラップで、外来語を一切使わず、封建時代の人々の生活や抑圧を、さながら浄瑠璃とラップを融合したような「語り芸」でもって活写して現代日本の状況を映しだしていく手口は鮮やか。特に「八百屋お七」をモチーフに、あの世とこの世をゆらめきながら日本人の死生観に切り込んでいく「死狂い」「三途」「又夢」という連作は圧巻です。日本盤CDはボーナストラック収録。Bandcampは24/48のハイレゾです。
■小野島大
音楽評論家。 『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』『CDジャーナル』などに執筆。Real Soundにて新譜キュレーション記事を連載中。facebook/Twitter