ザ・クロマニヨンズの成長を目指さず円熟を拒む存在感 『レインボーサンダー』ツアーを見て

ザ・クロマニヨンズは荒唐無稽な願いを現実にする

 桐田勝治は「三年寝た」ですさまじいドラムソロを聴かせる。コビー(小林勝)は右ヒジがほぼ伸びきるダウンピッキングでベースを唸らせまくった(初めて観た時はドレッドヘアでベースを高く持ってスラップしまくってたよな、と、今でも思い出してしまう。27年くらい前の話です)。「ギリギリガガンガン」でコビーと共にステージ前方へ出たマーシーは、アンコールは上半身裸で登場し(これもコビー、そしてヒロトとお揃い)、最終曲を終えるとあのやわらかい口調で「またねー」と言ってステージを下りた。そしてヒロトは終始、歌ってハーモニカを吹いてジャンプして転げ回り、幾度となく「やりたいやりたいやりたい!」「ほかのアルバムからやらしてください!」「B面やらしてください!」「やりたがってる奴は誰だ!」「やるぞやるぞ!」と「やりたい」方面の言葉を口にする。

コビー(小林勝)

 始まったのは19時10分頃、アンコール3曲が終わったのは20時30分すぎ。1時間半弱の、いつもとおんなじ、しかしそれでいて最高としか言いようのない、ザ・クロマニヨンズの時間だった。

 成長を目指さず、円熟を拒み、パンクの、ロックンロールの、初めてギターを持ってジャーン! とやったファーストインパクトの瞬間に留まり続けようとする、あるいは戻り続けようとするバンド。という、むちゃで荒唐無稽な願いを、現実にしてしまうバンド。ザ・クロマニヨンズが、そんなマジカルとしか言いようのない音楽であることは、結成から現在まで14年ぐらい続いているわけだし、もっと言えばヒロト&マーシーがこのバンドの前にやっていたザ・ハイロウズも中盤くらいからそういうものだったとも言えるし、今さらここでなんか言ったり考えたりすることでもない気はする。考えてもしょうがないという結論は、何年も前から、何回も出ているので。

桐田勝治

 ただ、英米も国内も含めて、きっとこれまでも数限りなく存在してきた、原初のままの形でパンクやロックンロールをやろうとしてきた数多のバンドたちのそれと、ザ・クロマニヨンズのそれは、あきらかに違う気がしてならない。同じだったらもっと安心して観れるし、安心して聴けると思う。「ああ、このパターンね」「こういうことがやりたい人たちね」というふうに。

 音もリリックも存在のありかたそのものも、こんなに簡単で、単純で、素朴なのに、ザ・クロマニヨンズは謎なままだ。いや、「まま」じゃない。その謎は深くなる一方なのだ。

(写真=柴田恵理)

■兵庫慎司
1968年生まれ。音楽などのライター。「リアルサウンド」「DI:GA ONLINE」「ROCKIN’ON JAPAN」「週刊SPA!」「KAMINOGE」などに寄稿中。

■セットリスト
『ザ・クロマニヨンズ ツアー レインボーサンダー 2018-2019』
4月17日(水)東京・中野サンプラザホール

01. おやつ
02. 生きる
03. 人間ランド
04. ミシシッピ
05. ファズトーン
06. サンダーボルト
07. グリセリン・クイーン
08. どん底
09. スピードとナイフ
10. 時のまにまに
11. 恋のハイパーメタモルフォーゼ
12. 荒海の男
13. 東京フリーザー
14. モノレール
15. 三年寝た
16. ペテン師ロック
17. エルビス(仮)
18. 雷雨決行
19. ギリギリガガンガン
20. GIGS(宇宙で一番スゲエ夜)
<アンコール>
21. オートバイと皮ジャンパーとカレー
22. タリホー
23. ナンバーワン野郎!

■リリース情報
ザ・クロマニヨンズ LIVE DVD『ザ・クロマニヨンズツアーレインボーサンダー2018-2019』
発売日:7月31日(水)
価格:【初回生産限定盤DVD】4,630円(+税)/リストバンド&特製缶バッヂ2個付き※デジパック仕様
【通常盤】4,000円(+税)

■関連リンク
ザ・クロマニヨンズ オフィシャルサイト

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