GOMESSが明かす、『あい』『し』『てる』三部作完結編で挑んだ“ヒップホップ”の再定義

GOMESS挑んだ“ヒップホップ”の再定義

人生最大のターニングポイントになった、優しい母への思い

ーー2曲目のDJ BAKUさんのプロデュースの「光芒」は、どういう経緯でコラボが実現したんでしょうか?

GOMESS:BAKUさんとライブでの共演が決まっていたとき、直前に主催者の人が計らってくれて、ご飯の席を作ってくれたんですよ。でもそのときは「一緒に作りましょう!」とか軽々しくは言えなくて(笑)。尊敬してたので。で、セッションして、マジで気持ちよくて、その帰り道に言ったんじゃないかな? 「俺もっとやりたいです!」「いいよやろうよ!」みたいな(笑)。O.N.O さんも出会いは突然というか、ある日の僕のRUBY ROOM TOKYOのライブを最前で見てくれて、終わった後に「俺のトラックでやったらどうなるんだろう?」と言ってくれて「それはもうすごいことになりますよ!」みたいな話をしてそれから。


ーーそれにしても『てる』は、DJ BAKUさんにO.N.Oさんとすごい顔ぶれですよね。

GOMESS:作曲家の人選はこだわりましたね。みんなが「あー、そこね」ってなる奴は入れない。人生で一番辛かった時期に好きだった人、あの時に出会っていたら好きだったろうなって思えるアーティストを主軸に考えました。中でもMichitaさんの音楽には過去に何度も救われました。ビートが一本ガツンと柱としてあって、その周りに美しい旋律が景色のように舞っていて、言葉がドラマを展開する。それってすごくヒップホップ的だと思うんです。最近エモ系のトラックメイカーが増えてるけど、彼の本質はビートにあるから他とは全く違うなって。だから、彼をアルバムに組みこむときには絶対にヒップホップのアルバムにしようと思いました。あと、MichitaさんとO.N.Oさんってふたりとも北海道だけど、同じアルバムで共演って全然ないよなと。だから、そこをひとつにぶちこむみたいな。ヒップホップの好きなところって、遠く離れていてもつながっていくことだから。1枚のアルバムに色々な面子が集まった、ドキドキをくれるアルバムになったかなって思いますね。

ーーMichitaさんのプロデュースの「Candle」では、GOMESSさんが仲間の死を歌っていますね。

GOMESS:ビートが先にあって、何回も聴いていく中で、俺が15歳のときに病気で死んだ、ラップを教えてくれた奴のことを思い出して。そいつのことを歌にしたいなってずっと思ってたので。あんまりきれいな曲にしたくないって思いがあって、Michitaさんとだったら、きれいにならずに歌える気がするなって思って書きましたね。

ーー「魔女狩り」のプロデュースは、神聖かまってちゃんの子さんですが、ヒップホップのトラックっていうよりは、の子さんがYouTubeにアップする神聖かまってちゃんのデモ音源みたいですよね。

GOMESS:大正解だと思います(笑)。の子さんには、SEKAI NO OWARIの主催イベントで毎年会ってたんですけど緊張しちゃって全然話せなくて。どうしてもなんか一緒にやってみたいなと思って、の子さんにTwitterでDMしてみたんですよ。そしたら「今日と明日レコーディングしてるからおいでよ」って言われて、こじあけて。川沿いを歩きながらしゃべって。の子さんが「俺たちみたいな奴らが、この世界でもっと聴かれなきゃいけないんだよ。でも、この世界は現実逃避がしたいから俺たちみたいな音楽は聴いてくれねえんだよ」みたいなことを言ってて、俺も本当にずっとそう思ってたから、「やっぱりこの人しかいない!」みたいな気持ちになってしまって、「マジョリティなんて概念殺してやりましょうよ!」みたいな。「魔女狩り」はマジョ狩りなんですよね。実は、の子さんが送ってきたまんまの2Mixに、ラップをミックスしてるんですよ。エンジニア泣かせだったんですけど、それが一番俺との子さんがぶつかってる感じがするかなって思って。

ーー今日の取材は藤本九六介さんが同席してくれているんですけど、Paranel名義でも「ai」「tell」をプロデュースしていますね。

GOMESS:「ai」はもともと、Terumasa Setoという男が作曲して、藤本九六介がParanelっていう名前で編曲したんですね。Terumasa SetoとParanelっていうのは「人間失格」のチームなんですよね。自分の中ですごく大事なふたりで。

ーータイトル曲としての「tell」というのは、アルバムのタイトル曲であり最後の曲であり、「自分も変わっていくものなんだ」っていう、ある種の達観みたいなものがありますよね。そういう視点は先にあったものでしょうか、それとも曲との共鳴で生まれたものでしょうか?


GOMESS:「tell」は「てる」を補完するための曲なんですよ。アルバムの『てる』って、現在進行形と言ったじゃないですか。だから続いているということがわかる曲になればいいなって。こだわったところといえば、最後の曲「tell」と1曲目「I am lost」はリピート再生したときに、次にくるじゃないですか。そのときに「I am lost」の聴こえ方が変わればいいなと思って作りましたね。もちろん『あい』の最初の「普通のことができないから」に戻ってもいいようにしてあるし、『し』の最後の「箱庭」から『てる』の「I am lost」に行ってもいいようにしてあって、ちゃんと三部作を並べて聴いても大丈夫なようにこだわっていますね。

ーー「蝉」のプロデュースは、解散したGOMESS BANDじゃないですか。いつ録った音源なんですか?

GOMESS 活動当時ですね。ほぼ完成してるみたいな曲が20曲ぐらいあるんですよね。そのときのまんまの音源を使いました。ミックスはエンジニアにしてもらってるんですが、俺ん家で録った音質の悪いデモをそのまんまの感じでってお願いして。

ーーそして歌詞は、お母さんが子供に虐待をしている……?

GOMESS あっ、そういう風に映りますか? 違うんですよ。僕があまりに毎日パニックばっかりで、死にたいって泣き叫んでて。親は嫌じゃないですか、子供に死んでほしいわけないから。必死にそれを止めたりするというのを何年も繰り返していく中で、親も疲弊しますよね。真剣であればあるほどね。お母さんは優しい人だから心を痛めてしまって、ある日、全て終わりにしようかって提案をしてくれたんです。そのときの思い出を書いてますね。暴力なんて振られてないし、それは誤解のないように言っときたいです。あの日壊れかけたお母さんを見て、「俺のせいだ」って。「もうこんな思いをさせたくない」って思って。そこが俺の人生の一番のターニングポイントだったと思ってて。

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