はるまきごはん、キタニタツヤ、堀江晶太……ボカロ/歌い手カルチャーが拓くアニメ音楽の新潮流

ボカロ/歌い手カルチャー拓くアニメ音楽の新潮流

 また、不器用な青年と一匹の子猫の生活を描いたTVアニメ『同居人はひざ、時々、頭のうえ。』で、Schrodinger's Cat adding コトリンゴとしてオープニングテーマ「アンノウンワールド」を担当しているのが、「命に嫌われている」(2017年)などの殿堂入り曲を持つカンザキイオリ。彼が2018年に始動した新プロジェクトのSchrodinger's Catとは、自身も歌唱しつつ様々なボーカリストとコラボレーションしていくスタイルをとっており、ストリングスとピアノを軸としたポップで晴れやかなサウンドが心地良い今回の「アンノウンワールド」では、シンガーソングライターのコトリンゴを迎えて、青年と子猫の関係性を彷彿させる男女ボーカルで作品のオープニングを飾っている。

 他にも、『カゲロウプロジェクト』で有名なじんがGothic×Luck「星をつなげて」(『けものフレンズ2』エンディングテーマ)を書き下ろしで提供。「深海少女」(2010年)で知られるゆうゆは、ゆうゆ feat.ケムリクサ名義で『ケムリクサ』のエンディングテーマ「INDETERMINATE UNIVERSE」を担当しているし(しかもこの曲ではボカロが使われている)、『デュエル・マスターズ!』の新エンディングテーマとなるNormCore「CRY MAX!!」を同バンドのFumiと共作したれるりり、ReoNaが歌う『ソードアート・オンライン アリシゼーション』のエンディングテーマ「forget-me-not」を作詞したハヤシケイなど、今期のアニメ主題歌にはキャリアを充分積んでいる人たちも多く関わっている。

mono palette.「ロングタイムトラベラー」(TVアニメ「不機嫌なモノノケ庵 續」オープニングテーマ)

 なお、『不機嫌なモノノケ庵 續』のオープニングテーマに起用されているのは、歌い手ユニットのmono palette.によるオリジナル楽曲「ロングタイムトラベラー」なのだが、この楽曲の作詞・作曲・編曲を担当している堀江晶太もまた、元々はボカロPのkemuとして名を馳せていたことで知られる。今や作家としてLiSAから茅原実里まで幅広いシンガー/声優アーティストに楽曲を提供し、PENGUIN RESEARCHのベーシスト/コンポーザーとしてバンドを牽引するなど、アニソンシーンになくてはならない存在になっている彼だが、その創作のルーツを辿っていくとボカロカルチャーに行き当たるわけだ。

 もちろんsupercellやEGOISTで数々のアニメタイアップを経験しているryoや、キャラソンや劇伴音楽を含め多数のアニソンを提供しているkz(livetune)といった偉大な前例がいるので、今さらの話にはなってしまうのだが、今期のアニメ主題歌の状況を見渡す限り、現在は“ボカロPの作家活動”が当たり前の時代になっており、その主な活躍の場として“アニメ音楽”のシーンがある、という見方ができそうだ。また、件の『不機嫌なモノノケ庵 續』では、「演奏してみた」動画での活動で知られるピアニスト/アレンジャーの事務員Gが音楽プロデューサーを務めていることも考慮に入れると、ボカロや歌い手のカルチャーと隣接するアニメ音楽の新たな潮流が見えてくる気はしないだろうか。

■流星さとる
流浪の人。アニメ・声優・アニソン関連のライター仕事、よろず承ります。お問い合わせは【ryuseisatoru@gmail.com】までどうぞ。

■リリース情報
ウォルピスカーター
1st Single『1%』
発売中
¥1200+税

TVアニメ「不機嫌なモノノケ庵 續」音楽集
発売中
価格:¥2,500+税

mono palette.
『ロングタイムトラベラー』【限定盤】
発売中
価格:¥1,800+税

ウォルピスカーター公式サイト
mono palette.公式サイト
『不機嫌なモノノケ庵 續』

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「音楽シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる