『MUSIC FOR ANIMATIONS』インタビュー
TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND、音色や響きを突き詰めたアニメ音楽の歩み
石川智久、フジムラトヲル、松井洋平に3人組テクノポップユニットTECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(以下、TECHNOBOYS)。彼らがこれまでに担当してきたアニメ主題歌やキャラソン、劇伴から代表曲をまとめたベストアルバム『MUSIC FOR ANIMATIONS』を完成させた。アナログシンセに強いこだわりを持ち、音色や響きを突き詰めるからこそ生まれた楽曲とそこに込めた思いを、メンバー全員に話を聞いた。(杉山仁)
『おそ松さん』ファンほどTRシリーズの違いを理解している
――TECHNOBOYS のみなさんは今年結成25周年を迎え、グループとして劇伴などを担当されるようになってからもちょうど5年を迎えます。今回のベストアルバム『MUSIC FOR ANIMATIONS』の企画は、どんな風に立ち上がっていったのでしょうか?
フジムラトヲル(以下、フジムラ):アニメに提供した曲が溜まっていく中で、「それをまとめたものを作りたい」という気持ちはずっとありました。確か、2年ぐらい前から言っていたと思いますね。ただ、実際にはなかなか手をつけることができなかったので、今回結成25周年の記念として、「頑張って作ろう」という話になったのが最初でした。
――その際、「こんな風にまとめたい」という方向性はあったのでしょうか?
松井洋平(以下、松井):プロデューサーからは、「TECHNOBOYSのカタログを作りたい」という話がありました。単純にオープニング(OP)/エンディング(ED)テーマを並べるだけではなくて、劇伴もキャラソンも含めて色んなことをやっていることを分かりやすくするために、選曲もそれに合わせた形にしています。僕らはアーティストとしても、作家としてもアニメ音楽にかかわらせていただいているので、まずは「アーティストとして出したシングルの曲を全部入れよう」と考えて、次に楽曲提供させていただいたOP/ED曲や挿入歌、劇伴やリミックス、自分たち名義の楽曲のセルフカバー曲を入れているうちに……2枚組になってしまったんです(笑)。
――聴かせていただいて、本当に色々な音楽が作れる方たちだということが、改めて伝わってくるように感じました。
フジムラ:客観的に見ていただいてそう感じていただけるのはとても嬉しいですね。
――では、ディスク1から順番に、特に印象に残っている楽曲について振り返ってもらえますか?
松井:色々ありますが、たとえば僕は「SIX SAME FACES〜今夜は最高!!!!!!〜」(TVアニメ『おそ松さん』EDテーマ)。この曲は僕らの認知度を上げていただいた曲ですし、同時にかなり遊ばせてもらった曲でもありました。
――セリフを印象的に使用していますよね。
松井:そうなんです。最初に石川が「『シェー』(劇中のイヤミのセリフ)を使ってファンクを作りたい」という頭のおかしいことを言い出して……(笑)。そのコーラスが、よくゴスペルであるような雰囲気になったら面白いな、というアイデアでした。そこから、イヤミさんが歌ってくれることになったんですが、その歌が出てくるまでに6つ子たちのセリフを使ってワチャワチャ感を出そうと考えて。そこでまずは「曲をしっかり作ろう」と話して、英語詞で洋楽テイストのファンク曲を作って、それを全部和訳していくという作業でした。しかもその和訳が、6つ子でそれぞれ変わってくるんですよね。それぞれ性格が違うからこそ、結果的に出来たものは全然違うものになったことがすごく面白かったです。
――和訳する作業によって、6つ子それぞれの個性がきちんと表現された、と。
松井:たとえば、一松はマイペースなので言葉数が少ないですけど、神谷浩史さんが(キャストを)担当されたチョロ松はオタク特有の早口をイメージしていたので、「本当にごめんなさい!」と思うような大変な作業になって。しかも、そうして個性が出た段階で、「でも、音が一緒だったら意味ないじゃん」という話になって――。改めて考えると、その「意味ないじゃん」の意味が、僕らにもよく分からないんですけど(笑)、6つ子をローランドのTRシリーズに例えて、それぞれに合ったリズムマシンを選んで遊ぶという発想になりました(笑)。リスナーのみなさんにドラムマシンの違いまで言及いただいて、音の違いをしっかり聴いてくれているのが嬉しかったです。「『おそ松さん』の音楽を聴いてくれている人ほど、TRシリーズのキックの違いを理解してくれている人はいないんじゃないか?」と(笑)。
――多くの女性にTRシリーズの素晴らしさを伝えることになったんですね(笑)。テーマを設けることで音楽的な冒険や遊びを入れられるというのは、アニソンの独自性かもしれません。
松井:確かに、TR-909を使ったあとに同じ曲でTR-606を使ってもいい環境って、アニソン以外にはなかなかないですよね(笑)。
フジムラ:僕が印象的だった曲というと、やっぱり「Book-end, Happy-end」(TVアニメ『ガイコツ書店員 本田さん』ED主題歌)ですね。
――みなさんがもともと好きで聴かれていた高野寛さんとの楽曲ですね(参考:TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDと高野寛が目指した、“現代のテクノポップ”とは)。
フジムラ:僕の初めてのバイト代で買ったのが高野さんのCDだったので、そんな方と一緒に曲が作れたことは光栄でした。しかもただゲストとしてお招きするだけではなくて、がっぷり四つに組んで制作できて、ギターもアイデアをいただきましたし、歌も高野さんが作ったものかと思えるほど馴染むところまで持っていってくださって。共通言語が多くて、お互いどういうことがやりたいのかが何となく分かっているような作業でした。でも、最初は高野さんは、TECHNOBOYSに合わせてくれようとしていたんですよ。
松井:最初、僕らが思っていたギターの雰囲気と違ってビックリしたよね。僕らがイメージしていたのは、高野さんの「虹の都へ」のようなギターのストロークだったんですよ。
石川:そういう雰囲気でやってほしいな、と思っていたら、最初に高野さんからE-Bowを使ったエレキのロングトーンのものが出てきて、「おっ」と驚いたという。
フジムラ:でもそこから、「僕らは高野さんのこういう部分をイメージしているんです」と伝えて、最終的に僕らと高野さんの楽曲になったと思います。
石川:ロングトーンのギターも使いつつ、同時にギターのストロークを入れてもらいました。
松井:なので、この曲は僕らが意識していた高野さんのギターと、高野さんがTECHNOBOYSを意識してくれたギターが、1曲の中で共存する曲になりましたね。
――石川さんがディスク1で印象に残っている曲はありますか?
石川:この流れで言うなら、「Magical Circle」(TVアニメ『魔法陣グルグル』2クール目ED主題歌)ですね。打ち合わせのときに、中川翔子さんの”『魔法陣グルグル』愛”が凝縮された長文攻撃に圧倒されて、「一日置かせてくれる?」と伝えたんですよ(笑)。
松井:処理が追いつかなかった(笑)。その翌日に石川が作ったものを僕のところに送ってくれて、歌詞自体は、そこから完成までに全部で30分もかからなかったと思います。曲の中で、「ここにはこれを置きます」ということが、全部書いてあるんですよ(笑)。
フジムラ:中川さんから「ここにククリの要素を入れたい!」という要望もあったんです。それを僕が書記長のようにメモしていって、松井に投げた形でした。