『午後の反射光』インタビュー
君島大空が語る、自身のルーツや曲作りに対する視点「僕の音楽では歌はひとつの要素でしかない」
あまりハッキリ言葉を言いたくない
ーー歌詞はどの段階で作るんですか?
君島:歌詞は歌詞で、曲とは別に溜めておいて。心に思いついたことをずーっと書いていって、曲を作る時にそこから精査していくかんじですね。
ーー全体のもわっとした雰囲気みたいなものが、自分のイメージとしてあって、それに
合うような歌詞はどれかっていうことで、ストックしていた言葉の中から探してくるって
いう感じに近いですか?
君島:そうですね、でも歌詞は歌詞で言いたいことがあって。言葉を選び取っていく感じ。
ーー歌詞は普通のフォークやポップスの人があんまり使わないような難しい語彙も出てきますけど、どういったところから、そういった言葉は浮かんでくるんですか?
君島:作った段階でのインチキな英語の耳触りみたいなものをすごく信じていて、日本語にない響きであったりとか、言葉の「音としての響き」がとても好きなので。そういうものを大事にしたくて、これが良いなと思ったボイスメモのテイクから、言葉を当てていく感じなんですよね。それに似た響きを。当てていって、見えてきた線を、さらに磨いて、ちゃんとつなげていくような。
ーー歌詞の言葉のひとつひとつに、細かく意味を込めていくというよりは、響き重視の場合も多いということ?
君島:多いです。ワンセンテンスでドンというよりは、全体をぼかして見たときに、こう
いうことなんだっていうのが、なんとなく伝われば良いなっていう。
ーー君島さんのボーカルスタイルはかなり独特ですが、意識しているところは?
君島:あまりハッキリ言葉を言いたくない、というのはあります。自分を離れてしまった言葉の強さみたいなものがすごく怖くて。聴いた人が受けて、思ってもない方向に作用してしまうことっていうのは、多分あると思うんです。僕はそういうのを感じたことがあって。無駄に悲しませてしまったりとか、無駄につらくなってしまったりとか、そういう風に受け取られてしまったことがあるので、ぼかすような、ちょっと言葉ではない感じに歌う。楽器的な響きとして。
ーー音楽から言葉だけが切り離されて一人歩きしちゃうのがイヤだってことですか。
君島:そう。そうなると、歌がとても立ってきてしまう。歌のための音楽になってしまう。
ーーああ、歌のための音楽じゃないんですね。
君島:そうですね。僕の音楽では、歌はひとつの要素でしかない。もちろん歌は好きですし、トム・ウェイツも好きだし、まわりのシンガーソングライターの言葉も歌も大好きなんですけど、自分が作るものは、歌や声は音楽を作るうえでのひとつのーーでも欠かせない要素だと思います。
ーー自分の声をどう評価しますか?
君島:あんまりボーカリストとしては良くないなぁと思います。喉が弱い(笑)。歌う人間ではないなぁと、作ってるときにホントに思ってしまいます。
ーーそれと関係あるかわかりませんが、君島さんの声の、あの中性的な感じがひとつの個性になっていますね。
君島:そうですね。男性性みたいなものは消したい。
ーーああ、それ、やっぱりありますか。
君島:男性の匂いのする声が好きではないんですよ。多分ただの好みなんですけど。僕にとっては余計なもので、すね。それがとてもかっこいい方もいるし、そういう曲もあると思うんですけど、さっきの「言葉が立ってきてしまう」みたいなことと同じで、その匂いばかりが僕は気になってしまう。音楽が入って来なくなってしまう気がして、なるべく消したい。
ーーもともとご自分の声がそうだったのでそういう考え方になってきたのか、それとは関係なく、男性性が出てるような声が好きじゃなかったのか。
君島:どちらもありますね。音楽を聴いていて、男性性でも女性性でも、少し行きすぎてしまうと、音楽には要らない色気だと思うんです。音楽に必要な色気もあるとは思うんですけどね。あとは自分が歌を作り出したとき、すごい太ってたんですけど、昔のボイスメモをこの前聴いたら、すっごい声も太っていて。
ーーへえ。そんなのあるんですね。
君島:うわ、太ってるやつの歌だ!、みたいな。多分喉が太いから。思い出すと多分その頃は、自分の声がホントに気持ち悪いと思いながら歌ってた。その頃の気持ちがまだ残っていて、そこからなるべく離したいって気持ちもある。
ーーなるほどね。完全に離して、たとえばボカロに歌わせるっていう発想にはならない?
君島:ならないです。人間の声は、音楽にとって一番大事な要素だと思うので。肉体とか血みたいなものを、あんまりフィルターを介さずに伝えられるものだと思うんです、声っていうのは。
ーー仮の話ですが、あなたがすごい逞しい男性的な声をしたボーカリストだったら、今みたいな表現、音楽になっていたと思います?
君島:絶対になってないと思います。絶対。メタラーにはなってたかもしれないですけど
(笑)。
ーー自分の声質とかそういうものが、音楽性を規定していくみたいな。
君島:そうですね。あとやっぱり、女性の声がすごく好きなんですね。その憧れみたいなものはずっとありますね。
ーーじゃあ女性ボーカリストからお声がかかるのは必然ということなんですかね。
君島:ああ、でもそうなのかもしれませんね。男性の方からオファーがきたことがホントに、ほぼないです。それは逞しくないからなのかもしれないなっていうのは、最近思いますね。
ーー君島さんの、繊細さみたいなものの表現が、女性のアーティストと相性が良いっていうことなんですかね。
君島:そうだと良いなぁと思います(笑)。