『午後の反射光』インタビュー
君島大空が語る、自身のルーツや曲作りに対する視点「僕の音楽では歌はひとつの要素でしかない」
わかりあえなかった部分を音楽にしていこうっていう気持ちはある
ーーとなると、君島さんの音楽は、ある種のノスタルジーとしても機能してるっていうことでしょうか?
君島:そうですね。それは自覚があります。
ーーなるほど。確かに聴いていてそんな感じがしました。なんか白昼夢を見ているような。心象風景のようでもあるし、現実の風景のようでもあるし、それが曖昧なところで漂っていて、美しい時間だけがそこに流れている。
君島:共有ができない部分、他の人と「あれ良かったよね」と話し合えない部分で、自分が大切にしている瞬間。好きな人の横顔をちらっと見たときに、その人の瞳に光が入
っていて「わー、きれいだな」って思った一瞬みたいなものを、引き伸ばして音楽にし
たいっていう欲求がありますね。
ーーMy Bloody Valentineの曲とか、ホントに自分が気持ち良いと思う瞬間が永遠にループして終わらないで続いている甘美な感じっていうのが、私はすごい好きなんですけど、それに近いですか?
君島:ええ、ええ。そうですね。
ーー例えば現在進行形で自分が感じてることを、そのままパッと歌にするみたいなことってあまりないですか?
君島:あんまりないですね。でも最近は、そういう曲が作れるようになってきたかなと思います。今まで作った曲は全部、その時点からちょっと時間が経ってから振り返って、こんなきれいな景色だったなぁみたいなのを、言葉を集めていく感じ。多分自分の中ですごいたくさんフィルターを通して。なるべく美化はしないように努めて作っているんですけど。
ーーそういう音楽だからこそ、あの凝った空間構成というか、音響的な部分も含めたトリートメントが必須っていうことですね。
君島:そうですね、それがないと(ダメ)、とは思います。
ーーある種の舞台装置として。
君島:ええ、ええ、そうですね。さっきも言ったように、声とか言葉では足りない部分を、そういう音で補っていくという。
ーーなるほどね。そんな凝った音源を出して、今後ライブはどうするんですか?
君島:すごく考えています。弾き語りでもちょろちょろやろうかなとは思うんですけど、
ひとりでできるだけ音を出せるように。違う音を出せるようなセットになっていくかなと。バンドもやろうかなと思いますね。
ーーバンドやりますか?
君島:ついに!(笑)。(注・この取材のあと、バンドセットでのライブを発表)
ーーバンドでやると、ひとりでやるのとは違う伝わり方がある?
君島:それは感じますね。わかりあえない分、違う人同士がぶつかったときのバチッとした光みたいなものはすごく信じています。
ーーわかりあえないことが前提ですか。
君島:わかりあえないことが前提です。でも、ライブをやってる途中に何かが繋がる瞬間みたいなものがあって。その瞬間を信じてやってますね。
ーーそれはサポートのバンドをやってるときにもそう思う?
君島:そう思います。そこに最短で行き着くために、歌に寄り添うギター、みたいなすごい抽象的なことばかりずーっと考えていましたね。バンドはバンドですごく好きです。合奏するのはすごく好きです。
ーーお話をお聞きしていると、君島さんの表現は、諦めるところからスタートしているというか。そんな印象を今受けましたけど。
君島:(笑)。そ〜うですね。なんでですかね。諦めからスタートしているかもしれないですね。確かに、そう言われてみると。
ーーわかりあえないとか、一番美しかった瞬間に思いを馳せるみたいなところからスタートしていることとかもそうですけど。
君島:それは……なんだろう、僕が好きな音楽家が全部ひとりでやっている人が多いからっていうのもあると思っていて。わかりあえないっていうのは、ずっとあるんですよね、小っちゃいときから。
ーー音楽に限らず、日常的にもあるっていうことですね。
君島:そうですね。恐らく父の影響だと思うんですけど。死生観みたいなのを幼い頃から言ってくるような親父で。人はわかりあえないっていう旨のことを、言われてきたことも一因としてあると思います。
ーーそういうことを幼い息子に言うわけ?
君島:振り返ると、ホントにどうかな? って思うんですけど(笑)。でもホントにそうだなとも思いますし、自分で。
ーーでもわかりあいたいと思いますか?
君島:思います。だから、そのわかりあえなかった部分を自分の音楽にしていこうっていう気持ちはあると思います。
ーーそれは人に対して何かを求めるっていうことになっちゃうから、相手次第っていうことになりますよね。それはなかなかちょっとつらいかもしれないですね。相手に委ねちゃうっていうのは。
君島:うん、そうですね。つらいですね。つらい道だと思います。
ーーでもみんなそうなのかもね。現実生活に満たされてて、幸せなリア充だったら別に
音楽作る必要もねえだろって(笑)。
君島:(笑)。そうですね、そういう人の音楽はあまり興味ないですね(笑)。
(取材・文=小野島大/写真=はぎひさこ)
■リリース情報
『午後の反射光』
3月13日(水)リリース
¥1,620
1. interlope
2. 瓶底の夏
3. 遠視のコントラルト
4. 叙景#1
5. 午後の反射光
6. 夜を抜けて