黒崎真音に訪れた大きな変化 “オープンハート”が生んだ『とある魔術の禁書目録 III』新OP誕生秘話

黒崎真音が語る、自身の大きな変化

キャリア8年の“1年生アニソンアーティスト”

ーーそしてカップリング曲もやっぱり黒崎さん作詞の「To My Dear…」なんですけど、今までお話をうかがってきたことで、この曲の詞の正体もなんとなく見えてきたというか……。

黒崎:そうかもしれませんね。

ーー1コーラス目のAメロの時点で主人公は愛する誰かとお別れしているんだけど……。

黒崎:実は前を向いているという(笑)。

ーー〈大丈夫 もう一人歩きだせる〉、〈君に出会えて 本当、良かった〉と歌っていますもんね。

黒崎:違いがあるとすれば「ROAR」の歌詞は雄々しい男性的な視点で書いたんですけど、「To My Dear…」に関しては女性の目線で書かせてもらっていて。去年舞台を観まくっていたときに、衝撃的なまでに感動できる作品に出会ったので、そこからインスピレーションを受けて書いた歌詞なんですけど……。

ーー前向きな別離を描いた物語だった?

黒崎:はい。観終わったあと、たとえ悲しい別れであっても、ネガティブな感情を持ったままお別れするよりは、相手の幸せを願ったりとか、温かい気持ちでお別れした方が絶対にいいですから。

ーーおっしゃるとおりです(笑)。

黒崎:でも私自身はそういう歌詞を書いたこともなかったし、そういう言葉が似合うような曲とも出合えていなくて。今回そういう曲が巡ってきたいい機会だったので、黒崎真音的には異色のミドルバラードとして書かせていただきました。

ーー作曲家の板倉孝徳のメロディも、宮崎京一さんと出口遼さんのアレンジも、ある意味「ROAR」とは正反対というか。ドラムは16ビートのループで構成されているし、そこにアコースティックギターとストリングスが絡む、すごくいい温度感のスタイリッシュなトラックですよね。

黒崎:切ないけど、どこか明るいですよね。

ーー「メジャー進行です!」というほど明るくはないんだけど「マイナー進行です!」と言い切れるほど暗くもない。あわいを感じるメロディラインですよね。

黒崎:ただ最初に板倉くんからメロディだけが届いたときはけっこう暗い曲に聞こえたんですよ。主人公が前を向く感じじゃないまま別れそうだったんですけど、宮崎さんと出口さんに編曲していただいたら、このすごく軽く弾む感じになったんですよね。それで私も前を向くことができたというか、その板倉くんのメロディと、宮崎さん、出口さんのアレンジを聴いていたら、自然とこういう別れの風景が自分の中に湧いてきて。それも面白い体験でしたね。板倉くんからメロディが届いたときに書き始めた仮歌詞は、ストーリーは同じでも主人公像がもっと暗かったんです。でも、アレンジされたことで主人公自体がだんだん前向きになっていった感じ。音や楽器の使い方によってこんなに人の気持ち……というか私の気持ちや言葉って揺り動かされるんだなあ、って知ることができたので。

ーーそれってうらやましいことだなあ、と思うんですよ。キャリア8年ともなると、いい意味でも悪い意味でも慣れるというか。1年目に比べると日々の音楽活動の中にも新しい発見ってなくなってくるんじゃないのかな、という気がするんですけど……。

黒崎:あっ、私は常に1年生のつもりなので。

ーー前回のインタビューでもおっしゃってましたよね。キャリアを意識すると「ここまでやってきたんだから」って自分で限界を決めることにもなりかねないって。

黒崎:だからキャリアという言葉と黒崎真音の姿がうまく重ならないし、いい意味で常に新入生のつもりでチャレンジしていきたいんです。

ーーそして今回はアレンジの変化に応じて、ご自身のリリックを進化させるという、これまた刺激的な体験をすることになった、と。

黒崎:もしかしたら自分自身、常になにか新しいことを探しているのかもしれないですね。去年は本当に発見の年で、一瞬それこそキャリアを考えてしまった……「この7〜8年のあいだにけっこうやりたいことはやらせてもらったな」「デビュー当時の夢が叶いつつある感触があるな」って思っちゃったりもしたんですけど、その直後に「いやいやいや、まだまだ全然いろいろやるべきことはあるでしょ」って気付けたり。いろんな楽曲、いろんなアニメに出会わせてもらっているのに、当の私が「これはこういう感じでやればいいんでしょ」って作業的になっちゃうことがすごくイヤな自分がそこにはいて。そういう態度でいるから、ありがたいことにいろんな気付きやインプットがあるような気もします。

ーーiTunes Storeのチャートがすでに証明していることではあるんですけど、今回のシングルって、ご自身の目論見どおり、新しい黒崎真音像をきちんと提示しているし、それがちゃんと支持を集める気がするんですよ。

黒崎:ホントですか。

ーーはい。ここまであからさま、かつ前向きなメッセージを届ける2曲、言うなれば黒崎真音の新機軸を打ち出したわけですから。もともとのファンの方はもちろん、正直これまで「黒崎真音はちょっと……」と思っていた人の中にもビビッドに反応する人たちが出てくると思いますし。

黒崎:確かに遠くの人に届くようにイメージして歌った2曲ではありますね。去年、言われて印象的だった言葉に「君は選ばれないことに慣れている」っていうのがあって。私は当然みなさんに曲を聴いてもらいたいと思っているつもりだったんですけど、そうおっしゃる方がいるなら、どこか思い当たるフシがあるのかもしれない、と思って自分研究みたいなことをしてみたんです。

ーーホントに去年は思案の1年だったんですね(笑)。

黒崎:ホントにいろんなことを考えさせられたし、試してみた1年でした(笑)。で、よくよく思い返してみたら、ある意味、最初の話に戻るんですけど、確かに「私は今なにを思っている」「なにを目指している」って口にする回数がすごく少なかったな、ということに気付いて。当たり前のことなんだけど、私の考えていることなんて口にしないと周りの人はわからないじゃないですか。だから私の思いは気付かれないまま素通りされている……まさに声を上げなかったばっかりに黒崎真音が選ばれていなかったこともあるんじゃないかという気がしてきて。だから歌詞や歌い方についても、より多くの人、より遠くの人にも思いを届けられるようなものにしたいんですよね。

(取材・文=成松哲)

■リリース情報
『ROAR』
発売:3月7日(水)
価格:初回限定盤(CD+DVD)¥1,800+税
初回限定アニメ盤(CD+DVD)¥1,800+税
通常盤(CD)¥1,200+税

<CD収録内容>
・初回限定盤/通常盤
1.ROAR(TVアニメ『とある魔術の禁書目録III』新オープニングテーマ)
作詞:黒崎真音 作曲:中沢伴行 編曲:中沢伴行、尾崎武士
2.To My Dear...
作詞:黒崎真音 作曲:板倉孝徳 編曲:宮崎京一・出口遼
3.ROAR<instrumental>
4.To My Dear...<instrumental>

・初回限定アニメ盤
1.ROAR(TVアニメ『とある魔術の禁書目録III』新オープニングテーマ)
作詞:黒崎真音 作曲:中沢伴行 編曲:中沢伴行、尾崎武士
2.To My Dear...
作詞:黒崎真音 作曲:板倉孝徳 編曲:宮崎京一・出口遼
3.ROAR(TVサイズ)
4.ROAR<instrumental>
5.To My Dear...<instrumental>

<DVD収録内容>
・初回限定盤
「ROAR」 MV、MV Making.TV SPOTを収録

・初回限定アニメ盤
「ROAR」 MV Short ver. TVアニメ「とある魔術の禁書目録III」の映像を使用した特別編集MV収録。 アニメ描き下ろしイラストジャケット。

■アニメ情報
『とある魔術の禁書目録III』
放送情報
AT-X 毎週金曜日22:00〜
リピート放送:毎週日曜日21:00/毎週月曜日14:00/毎週木曜日6:00
TOKYO MX 毎週金曜日24:30〜
BS11 毎週金曜日24:30〜
MBS 毎週土曜日27:38〜
AbemaTV 毎週金曜日24:30〜
※放送日時は変更になる場合あり

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