『ROAR』インタビュー
黒崎真音に訪れた大きな変化 “オープンハート”が生んだ『とある魔術の禁書目録 III』新OP誕生秘話
黒崎真音がニューシングル『ROAR』をリリースした。
この作品の表題曲は現在放送中のTVアニメ『とある魔術の禁書目録 III』(TOKYO MXほか)の新オープニングテーマ。黒崎は昨年同アニメのオープニングテーマ「Gravitation」も歌っており、今回『とある魔術の禁書目録 III』のテーマソングを2シーズン連続で歌うこととなった。
そして「ROAR」の作詞は黒崎自身が手がけた。彼女は今回、ヘヴィメタル仕立てのハードなこの楽曲に〈進もう 想いのままに〉、〈孤独の風抱いた いつかこの想いが 世界 照らす光になるよ〉と圧倒的にポジティブなメッセージを添えている。
これまでの一連のリリック、そしてそのビジュアルイメージからもゴシッキーでダークな世界観で鳴らすシンガーソングライターのイメージが強かった黒崎が、一転、タフに前を向いた理由とは? 本人に話を聞いた。(成松哲)
アニソンシーンの多様性が彼女にもたらした決意
ーー前回のシングル『Gravitation』リリース時のインタビューとまったく同じ導入になっちゃうんですけど(笑)、先行配信リリースされた「ROAR」のiTunes Storeアニメカテゴリのチャート1位獲得、おめでとうございます!
黒崎真音(以下、黒崎):ありがとうございます(笑)。
ーー「Gravitation」に続いて「ROAR」も配信1位に輝いたのを見て『とある魔術の禁書目録 III』と黒崎真音のタッグがブランドとして確立されたのかな、なんて印象を受けたんですけど……。
黒崎:いやいやいや。配信リリース前後にはTwitterなんかで必死にプロモーションしてましたし(笑)。「『Gravitation』のときにも1位になったのに、今回ならなかったらヤバい!」っていう危機感もあり、その一方で純粋に「みんなに聴いてほしいな」という気持ちもあったので、どんどん宣伝していくべきだろうと思ってTwitterやブログを書いてました。
ーー確かにこれまで以上に黒崎さんが言葉を発信しているイメージはありました。ブログにかなりガッツリとした楽曲解説を書いていたり、それこそ配信直後にはTwitterでiTunes Storeのチャートアクションを速報していたり。
黒崎:私の今年の目標のひとつに「オープンハート」……って英語で言っちゃうとすごく中二っぽいんですけど(笑)、とにかく発信しまくって1人でも多くの方に私の思いを知ってもらおうっていうものがあるんです。黒崎真音として8年活動させてもらっているんですけど、ライブのMCが苦手だったりすることもあって、まだ人となりや人物像が伝えきれてないな、という気がする瞬間が多々あって。MCで大事なことを言えないのであれば、Twitterやブログやいろんな手段を使ってでもちゃんと自分の思いを伝えていこうっていうのが今年の私のテーマなんです。
ーーそしてその「オープンハート」というテーマが「ROAR」のサウンドや歌詞にもモロに反映されましたね。
黒崎:そうなんですよ!
ーー「Gravitation」はシンセを前面に押し出したデジタル感の強いアレンジになっていたし、黒崎さんのボーカルにも派手なエフェクトがかかっていたんだけど、「ROAR」は生バンド感が強い。2010年代以降の“踊れるヘヴィメタル”、“踊れるラウドロック”といったテイストに仕上がっています。
黒崎:「Gravitation」には、これまでの『とある〜』シリーズのオープニングテーマを歌っていた(川田)まみさんが作詞をして、その曲を書いていた中沢(伴行)さんが作曲してくれて、そのおふたりの『とある〜』イズムみたいなものを私が引き継ぐっていうストーリーがあったと思うんですけど、確かに今回は作曲の中沢さんが完全に私を意識して作ってくださったのかなっていう感じがしました。純粋に「あっ、私の好きな音楽ジャンルが一気に集まったような曲だ!」と思っていて。ギターはメタルメタルしてますし(笑)、サビはシンセがキラキラしていたり、すごくワクワクする曲だったから、デモをいただいたときはうれしかったですね。
ーーただこの曲、リズムチェンジがド派手じゃないですか。いくら好きなジャンルとはいえ、この楽曲を歌いこなす黒崎真音の実力よ、と驚きもしました。
黒崎:確かにレコーディングは汗だくでした(笑)。イントロにロングトーンが入って、ラップか!っていうくらい刻んだ符割のAメロになって、Bメロは静かに鳴って、そこからクレッシェンドしてサビはスピード感しかない!って感じになって……。ホントに景色がどんどん変わる曲ですよね。ただ、サビはメロディを聴いているだけで『とある〜』のキャラクターたちの戦っている姿が浮かんできたので、私自身もとにかく強く前を向こうって思いながら歌っていました。
ーーその前向きなトラックに黒崎さんが与えた言葉もホントに前向きですよね。特にアルバム収録曲やカップリング曲での詞を読むぶんに黒崎さんはゴシッキーであったり、ダークだったりする世界を描くのがお得意なのかしら、っていうイメージがあったんですけど……。
黒崎:そうかもしれませんね。
ーーでも「ROAR」の詞は一切迷いなく、テンション高く、しかも誰かを恨むこともなく、ただただ自分の力で前向きに戦う誰かの姿を歌っている。
黒崎:この歌詞を書いているときは実際ひとりの時間が多くて、そのあいだにいろんな舞台や映画を観たり、絵を描いてみたり、ギターの練習をしてみたり、これまでできなかった勉強をとにかくしていたんです。で、それが寂しいなって思う瞬間もあったんですけど、これが未来のなにかに活かされるかもしれないという希望を持ってやっていたところがあって。「ROAR」の〈孤独の風抱いて いつかその想いが 白々しい世界をも変えるよ〉っていうフレーズはまさにそのときの状況や心境を描いたものですし。自分の中に貯め込んだフラストレーションはあるんだけど、それに対して後ろ向きな感情を抱くのではなく、前向きになろうって。
ーーその「未来に希望を持ってみよう」「前を向こう」と思うようになったきっかけって?
黒崎:なんでなんだろう? ひとりで考える時間が多かったっていうこともあったのか、去年のある日ふと思ったんですよね。「ウジウジ悩んだりするの、やめよう」って。昔はなにかというと誰かと比べたりしていたんですけど、そういうのが本当に無意味だなって思えてきたんです。もともと私がアニメソングの世界に憧れた理由っていろんな人がいることを許されるからで。奥井雅美さんをはじめとしたJAM Projectさんみたいなレジェンド級の方がいる一方で、ALI PROJECTさんみたいな誰にも歌えない唯一無二の世界観を持っている方もいるし、8年前の私のような新人にも場所を与えてくれる。そういう空気が好きだったんだから「誰かと同じになろう」とか「あの人にできることがなんで私にはできないんだろう」って考えること自体が、デビュー当時の私からするとブレてるなと気付いて。それで私が8年間活動させてもらっていることにはなにか意味があるはずだから自信を持っていこう、ちゃんと自分の長所を見つめてそこを伸ばしていこうと思えるようになったんです。さっきお話した観劇やギターの練習なんかを積極的に始めたのもその一環なんですよね。