EMPiRE、YUKA EMPiRE脱退から5人体制でリスタート 『ピアス』&ライブに表れた“帝国の未来”
2月27日にリリースされたEMPiRE初のシングル『ピアス』は、6人体制となりワンマンツアーを成功させ、さらなる高みに向かうべくしての勝負作。表題曲がTVアニメ『FAIRY TAIL』エンディングテーマという話題性も、その意気込みを強調させるに相応しいものだった。しかしながら、楽曲が解禁されてからこの約1カ月余りの間に、この楽曲の持つ意味は大きく変わってしまった。
現在のEMPiREが放つ、誇り高き帝国感ーー。例えるなら、中世ヨーロッパのパブリックイメージとでもいうべきか。「EMPiRE originals」で切り拓いた荘厳で絢爛たる世界観をさらに昇華させた……「ピアス」はそんな曲であると思う。
高らかに鳴らされる鐘、迫り来る打楽器群と流麗なピアノ、優美なストリングスと重厚なブラスセクション……次々と折り重なっていくあでやかな音世界。あたかも童話の中の音楽隊が奏でているような響きは空想的でメルヘンチック。そこにのる、前へ前へと突き進んでいく勇ましい歌が、聴く者の心を昂揚へといざなっていく。楽曲が初オンエアとなったアニメ放送時には日曜日の朝早くからメンバーもエージェント(=EMPiREファンの総称)も、Twitterの実況を中心に大いに盛り上がった。楽曲の壮大な情緒も勇敢な詞も、ファンタジーな作品にぴったりだと誰もが思った。
だが、その後のMV公開によって、そうした楽曲のイメージは大きく変わることになる。
喪服をモチーフとした、シックでありながら可憐な衣装は、瀟洒な彼女たちに似合っているし、黒い傘と白い百合、ゴシックテイストの映像も美しい。だが、ひとり傘をささずに雨に打たれているYUKA EMPiREの表情はどこか物憂げ。そんな彼女を囲む百合を持った5人の姿もどこか哀しげだ。やがて嵐のような雨風が止むと、YUKA EMPiREはメンバーそれぞれと抱擁を交わし、眩い光さす方へと消えていく。打ちひしがれうなだれる5人を残して。
……これは一体何を意味するのだろうか? 見れば見るほどに込み上げてくる得体の知れない不安と胸を抉るような焦燥感。当初感じていた、みなぎるような強さとはまったく違う感情である。
そして、公開からちょうど1時間後ーー。YUKA EMPiREの脱退が発表された。
「ピアス」が「EMPiRE originals」を昇華させた楽曲であるのなら、カップリング曲「ERASER HEAD」は1stアルバム『THE EMPiRE STRiKES START!!』の路線を深化させたダンスチューンだ。WACKとavexの共同プロジェクトらしい部分が表れた、どこか懐かしく、それでいて新しいエレクトロサウンド。飛び交う奇妙な無国籍感はEMPiREのプロダクトらしいところだが、これまでありそうでなかったダークな雰囲気が楽曲を支配し、妖艶さを醸し出す気怠いボーカルがさらに深い微睡みへと唆す。
詞を手掛けたのはMAYU EMPiRE。普段からの佇まいを含め、己の感情に対して素直な印象の強い彼女だけに、負の感情を叩きつけていく言葉はリアルに響く。グループの現状を鑑みれば、「ピアス」が解放へと向かう“陽”であり、「ERASER HEAD」は内包する“陰”と受け取ることもできるのだが、悪い意味での暗さは不思議とない。それは歌唱面を含め、これまでよりもずっと大きくなったグループの懐とこれからの可能性を感じるからなのかもしれない。
昨年9月のマイナビBLITZ赤坂でのワンマンライブ以降、多くのライブによってグループの特性は大きく変化したように思う。「成長した」以上に、「ベクトルが変化した」という印象を受ける。表面的なもの以上に意識的な変化である。10月からスタートした、はじめての事務所の後輩にあたるWAggとのツアー。当初は年齢を用いた自虐ネタのMCもあったが、「自分たちの楽曲を後輩が歌う」という演目内容のプレッシャーを含め、良い意味で下からの突き上げを感じていたことだろう。そして、対外アイドルイベントへの出演は、他グループファンへのアピールと、自らのアイデンティティを見つめ直す場にも思えた。そうしたライブを毎回違うセットリストで挑んでいく姿は実に頼もしく見えた。