EMPiREは“覇道から生まれた王道”のアイドルだーーシーンにおける特異性を考察

 2018年9月4日、凛とした表情の6人が紡ぐ、〈帝国のシンフォニー〉がマイナビBLITZ赤坂に響いたとき、「これが見たかったんだ」と心底思った。EMPiREの、新たな「帝国」の幕開けだと感じたーー。

 荘厳なストリングスアレンジ、未完からの決意を表す歌詞、現代舞踊的でダイナミックな振りと芸術性を色濃く打ち出したミュージックビデオ……この儼乎たる楽曲「EMPiRE originals」の世界観をライブで表現することは、正直難しいのではないかと思っていた。しかしながら、このBLITZワンマンライブの数日前、CDショップのリリースイベントにて披露されたのを観たとき、そんな懸念は払拭された。店頭イベントでのライブ環境でそう思ったのだから、BLITZのステージであればどうなるのだろうか。いつのまにかそんな期待に変わっていた。

EMPiRE / EMPiRE originals [OFFiCiAL ViDEO]

 今年5月に、同じくBLITZで行われた初ワンマンライブは、EMPiREの“終わり”と“始まり”だった。BiSへと完全移籍するYUiNA EMPiREを含めた5人体制最後のライブであり、MAHO EMPiREとMiKiNA EMPiREを迎えた6人体制最初のライブであった。両体制が2部構成でまったく同じセットリストのライブを行うという前代未聞の内容は、強烈なインパクトと未知なる可能性を残した。反面で、初リリース直後の初ワンマンという場で、EMPiREというグループの特性を世間に知らしめることが出来たかといえば、いささかの疑問符が残ったのも事実だった。

 EMPiREは、BiSやBiSH、GANG PARADEを手掛ける事務所WACKとエイベックスによる共同プロジェクト「Project aW」にて生まれたグループである。インディーズからのし上がっていったBiSやBiSHとは違い、はじめからメジャーレコード会社のバックアップがあるエリート集団。グループ名から連想される“女帝”のごとく、「スクールカースト上位」といわれるメンバーから醸し出される“リア充”感も、これまでのWACKグループにはなかったものだ。EMPiREの面白さ、それはこれまで掟破りな戦略でアイドルの既成概念を壊してきた異端のインディペンデント、WACKが手がけるメジャーのお嬢様アイドル、いわば“覇道から生まれた王道”にあるともいえるだろう。

 さらに他グループと大きく違うのはその音楽性である。楽曲を手掛けるのは他と同じく松隈ケンタ(SCRAMBLES)ながら、パンクロックやオルタナティブロックなどの激しいバンドサウンドを軸としているBiSやBiSHとは異なり、EMPiREが聴かせるのは打ち込みのエレクトロサウンドをベースとしたダンサブルなニューウェーブだ。フューチャーやトロピカルハウスといった硬質で派手なEDMサウンドではなく、柔らかい質感を持つどこか懐かしい耳慣れたサウンドは、まごうことなき90年代J-POPの潮流にあるもの。いうなれば、一時代を築いた往年のエイベックスサウンドを現代に甦らせたような趣きさえも感じさせる。かつて、BiSHのメジャーデビューに際し小室哲哉が楽曲提供、松隈が編曲とプロデュースを手がけたこともあったが、そんな邂逅を思い出してしまうほど、「WACKとエイベックス」という双方のパブリックイメージがうまく融合している。

『THE EMPiRE STRiKES START!!』(カセット+DVD)(スマプラ対応)

 4月にリリースされた、5人体制の最初で最後のアルバム『THE EMPiRE STRiKES START!!』は、テクノポップ風の「FOR EXAMPLE??」を筆頭に、アーバンな雰囲気漂う「Don’t tell me why」、ハイソでモダンなディスコチューン「TOKYO MOONLiGHT」など、90年代どころか、都会派感覚のバブリーな香りがプンプンする80年代リバイバルな楽曲が並ぶ。しかしながら古さを感じさせずスマートな印象を与えるのが本作の妙味。グリッチホップな「Black to the dreamlight」 、スケール感のあるビッグビートナンバー「アカルイミライ」など、いまどきなセンスが見事にクロスオーバーしているのである。 

懐古的なメロディと現代っぽいサウンド、EMPiREの新旧も溶け合う「MAD LOVE」MV

 今やライブに欠かせないキラーチューン「Buttocks beat! beat!」が、WACKらしいおふざけナンバーながら、他に類を見ない謎の無国籍感を放っているのも、EMPiREサウンドというべき、ニューウェーブなサウンドプロダクトがしっかりと確立されているからだろう。“カセットテープオンリー”というリリース形態もそうした音楽性と音像に見合った策といえる。<Burger Records>をはじめとしたアメリカ西海岸のレーベルや、イギリス発祥の国際イベント『CASSETTE STORE DAY』などによって、ここ数年で世界的に大きく盛り上がりを見せているカセット市場であるが、日本のメジャーアイドルが新譜をカセットのみで通常リリースした意味合いは大きいように思う。再生環境や利便性ではデジタルに劣るカセットであるが、ニッチな音楽鑑賞ツールとして、バイナルのレコードとも一味違う丸い音質と豊かな中低音の鳴りをEMPiREで体感してほしいところだ。

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