fhánaのメンバーとリスナーの“物語”が交差する 5周年ライブ『STORIES』を見て
バンドのこれまでが、一気にフラッシュバックしていくステージ
とはいえ、ライブはまだまだ終わらない。「Second ACT」では、ベスト盤には収録されなかったアルバム曲やシングルのカップリング曲の中から、彼らが選び取った世界線の賛歌とも言える「What a Wonderful World Line」や「現在地」といった楽曲を披露。彼らのアルバム曲やカップリング曲にはバンドの音楽的な引き出しの多さや実験性、もしくは新たな試みが感じられる楽曲が多く、そこに今ならではの演奏力やアレンジが加わることで、楽曲が新たな表情を見せる。中でも「Relief」で見せたLCDサウンドシステムのライブを髣髴させる永遠に続くかのようなミニマルなファンクグルーブは圧巻で、「洋楽的なエッセンス」と「アニソンとしての機能性」、そしてJ-POPやJ-ROCKなど様々なジャンルのリスナーにも訴えかける「普遍的なメロディ」を持つ彼らの魅力を、最もエクストリームに体現する瞬間のように感じられた。
そして通常のライブのアンコールにあたる「Last ACT」では、昨年リリースした通算3作目のオリジナルアルバムのタイトル曲「World Atlas」を披露すると、続いて佐藤純一がフロントを務めていた前身バンドFLEETの楽曲「Cipher」を披露。この曲は現在までfhánaの多くの楽曲で作詞を担当してきた林英樹と佐藤純一が初タッグを果たした、fhánaの結成へと繋がっていく重要な楽曲だ。そして最後は、towanaが加わった今の編成でのfhánaにとっての“はじまりの曲”「kotonoha breakdown」で終演。関東大震災直後の混沌とした時代にインターネットを介して出会った佐藤純一、yuxuki waga、kevin mitsunagaの3人に、towanaの歌声が加わって豊かな物語が生まれていったバンドのこれまでが、一気にフラッシュバックしていくような感動的な雰囲気でこの日のステージを終えた。
彼らが今回のライブを「First ACT」「Second ACT」「Last ACT」として構成したのはなぜだったのか。あくまで想像でしかないものの、全編を観終えた瞬間、その意図がこちらにも伝わってくるように感じた人は、多かったのではないだろうか。fhánaの物語は、その先の可能性に心をときめかせながら進んできた旅路のようなものであり、その過程で出会った様々な人々とともに、その旅はまだまだ続いていく。「アンコール=再演」のないこの日のライブは、fhánaのこれまでと、この先に紡がれるだろう新たなストーリーとがひとつの線となって広がっていくような、バンドの今後へのさらなる期待を感じさせてくれるものだった。
(取材・文=杉山仁)