au三太郎シリーズがCMソングを超えてヒット生む理由 AI、WANIMA、GReeeeNら楽曲から考察

 2019年の元日、お茶の間でのんびりしている時に、au三太郎シリーズの新しいCMを何度も見たという人は多いのではないだろうか。「はじまりの予感」や「一歩踏み出す勇気」といった、年のはじめにぴったりの気持ちも湧きあがってくるCMが今年も話題となっている。

 振り返ってみれば、まずは2015年、同シリーズで桐谷健太が演じる浦島太郎(浦ちゃん)が歌った「海の声」が評判を呼び、彼はCMソングという枠を超えて、『日本レコード大賞』や『NHK紅白歌合戦』に出演することとなった。浦ちゃんのキャラクターから連想しやすい、沖縄民謡の延長線上にある曲調も印象的だったが、作曲を務めていたのが島袋優(BEGIN)というところも、このCMが楽曲にこだわっていると感じさせられる要因となった。

 そして2016年、AIが歌った「みんながみんな英雄」も、配信限定シングルであったものの、各サイトで初登場1位を記録。年末にAIは、この楽曲をひっさげて『紅白』に出場することとなった。この楽曲は「海の声」とは違い、出演者が歌っていない。そして、誰もが知る楽曲のカバー(フォークダンスで知られる「オクラホマミキサー」)、しかも、大幅なアレンジを加えるというスタイルは、同シリーズのCMソングの特徴として引き継がれている。auと英雄をかける、という小技が効いているものの、AIの歌唱力や楽曲そのものの魅力で、単なるCMソングにとどまらない広まり方をしていくこととなった。このあたりから、さあ次の同シリーズのCMソングは!? という注目度も高まっていったように思う。

 そんななかで2017年に飛び出したのは、WANIMAの「やってみよう」。童謡「ピクニック」を、メロディックパンクを出自とするWANIMAらしくアレンジしたこの楽曲は、彼らの名と音をグッと広めるきっかけになった。歌詞の世界観も含めて、この楽曲にまつわる全てが、明朗快活なWANIMAのキャラクターともぴったり合っていたことも、その要因となったと思う。この楽曲は、元々が童謡ということと曲調の明るさで、特に子どもたちにWANIMAの存在を浸透させることとなり、運動会などの行事で使う保育園や幼稚園、小学校も続出。CMソングやテレビというメディアの影響は未だに大きいということも感じさせられた。

 また、WANIMAに表れていた、新進気鋭のアーティストのフックアップという点においては、2018年のyonige「笑おう」においても発揮されていた。「聖者の行進」をアレンジしたこの楽曲は、同シリーズの明るさ・力強さも見事に体現するものであった。

そして今回のCMソングは、GReeeeNの「一緒にいこう」である。今回も耳なじみがある曲調だが、アメリカの野球ファンの愛唱歌「Take Me Out to the Ball Game(私を野球に連れてって)」と、バッハの「Jesus bleibet meine Freude(主よ人の望みの喜びよ)」の2曲をアレンジして作られたという、新しい試みで生まれた楽曲だ。そこに、これまでの同シリーズのCMソングの全ての作詞を手掛けてきた、CMプランナーでもある篠原誠が、同シリーズの作風やGReeeeNのイメージとも重なり合う歌詞をのせている。今回は、新進気鋭のアーティストではなく、これまでのヒット曲もあり、世間にイメージが浸透しているGReeeeNというアーティストが担当するということで、「楽曲を聴いて誰だかわかる」という強みとともに「CMよりも楽曲の方が強くなってしまう」という懸念もあったと思うのだが、そこは、様々なタイアップと高め合ってきたGReeeeNと、これまでの同シリーズでもアーティストのことを念頭に置いて作詞してきた篠原誠というタッグもあって、完璧に乗り越えているようだ。

「一緒にいこう」 フルver. /GReeeeN【公式】

 同シリーズとCMソングの関係性から見えてくるのは、タイアップは関わる全ての人たちにおいてクリエイティブでなければ、商品のヒットにも楽曲のヒットにも繋がらないということだ。CMサイドはそのアーティストとCMの親和性を考え、アーティストはそのCMでいかに自らが興味深く見せられるか、そして成長できるかを考える。そうすれば優れたCMソングが生まれ、その商品も世に広まるーーそんなシンプルで理想的な道のりばかりではないことは百も承知だが、CMソングを担当するアーティストのネームバリューに寄り掛かっただけのCMや、CMの意向だけを飲み込んだようなアーティストのCMソングでは、単純に見ている方もつまらない。そういった意味では、au三太郎シリーズは、「絶対に面白い」という信頼感があるのだ。これからも、CMとCMソングの理想的な関係性を見せてほしい。

■高橋美穂
仙台市出身のライター。㈱ロッキング・オンにて、ロッキング・オン・ジャパンやロック・イン・ジャパン・フェスティバルに携わった後、独立。音楽誌、音楽サイトを中心に、ライヴハウス育ちのアンテナを生かしてバンドを追い掛け続けている。一児の母。

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