輝夜 月「Dirty Party feat. エビーバー」に見るヒップホップ/パンクからの影響をさやわかが解説

輝夜 月の新曲をさやわかが解説

VR空間でのライブも実現させたVTuberとしての整合性

 こういう話をすると、要するにそれは「現実 VS.バーチャル」みたいなわかりやすい構図を用意して暴れてみせてるだけじゃんと思う人もいるかもしれないが、そうとも言い切れない。なぜならこのラップの歌詞は、タイトルからもわかるように、全体としてはパーティーラップになってる。つまり輝夜 月が扇動してフロアを揺らそうとしているということだ。

 では、VTuberにとってのフロアって、何だろう。そこもまた、やっぱり存在しないけど存在するハコとして、輝夜 月は盛り上げているのだ。彼女は先日、本当に観客も招いてのVR空間でのライブも実現させている。つまり彼女がこの曲を歌う場所は、やっぱりある(だけど、ない)と思わされる仕組みになっている。そういう活動全体のシンクロ具合も、ばっちり感じられるわけだ。

(C) KAGUYA LUNA Character Designed by Mika Pikazo

 こうやって、ストリートとかフロアみたいなものを意識させるような曲をあえて展開するあたりが、「こいつ、わかっててやっとんな〜」と思わせるわけだ。それが、ないけどある場所だっていう事実へと、聴く者を立ち返らせるような曲を、わざと作って、その虚空へ向かって叫んでいる。

 さらに、前述したBeastie Boysや、パンクカルチャーからはSEX PISTOLS、Hi-STANDARDが、かつて音楽とストリートファッションをリンクさせてユースカルチャーを形成したように、輝夜 月はバーチャルなストリートから、音楽とファッションのリンクを感じ、オフィシャルアパレル「Beyond The Moon」を展開するなど、新たなユースカルチャーまでも創造している。

 今後ますます、VTuberが歌う曲は増えていくだろうが、こういう「うまい落としどころ」みたいなものを見出した曲が先行して生まれてしまうと、このシーンは加速度的に面白くなりつづけていくんじゃないかなと思える。期待したい。

■さやわか
ライター、評論家。『クイック・ジャパン』『ユリイカ』などで執筆。『朝日新聞』『ゲームラボ』などで連載。著書に『僕たちのゲーム史』『文学としてのドラゴンクエスト』など。漫画原作に『キューティーミューティー』がある。

(C) KAGUYA LUNA Character Designed by Mika Pikazo

■配信情報
オリジナル・セカンドソング「Dirty Party feat. エビーバー」楽曲配信中 

■関連リンク
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