J-POPのグローバル化に必要なもの 『K-POP 新感覚のメディア』著者 金成玟氏に聞く

日本のサウンドメイキングは大きな武器

ーーたしかに、日本の有名なアーティストの多くがテレビ的というのは、的を射ているように思います。アイドルカルチャー自体がテレビから生まれたものですし。

金:社会におけるマスメディアの位置付けが、そもそも韓国と日本では違いますしね。韓国の場合はジャーナリズムにせよ、テレビにせよ、文化の中心にあるわけではなくて、どれもがその一部でしかない。だからこそ、メディア環境が変わるとあらゆるものがガラリと変わっていくし、K-POPのあり方も変わっていきます。現在のK-POPのムーブメントについて考えるとき、「第一次韓流ブーム」の延長として捉えると理解しがたいのはそこで、なぜかというと「第一次韓流ブーム」はあくまでもテレビドラマの流行に端を発したものだったからです。一方で、現在のブームはインターネットを活用したファンダムをベースに起こった。そのために、しばらく日本のテレビでK-POPが扱われていなかったのに、2017年頃から急に流行したかのように見えたのもそうです。言い換えると、テレビを中心としたJ-POPの枠組みの中では、捉えられないムーブメントだった。

ーー本書の中では、K-POPがJ-POPから多くのことを吸収してきた歴史についても、詳細に書かれています。金さんご自身、J-POPも多く聴いてきたと思いますが、今後は日本の音楽にどんなことを期待していますか。

金:日本には、ヤマハやローランドといった楽器メーカーがあり、80年代はそれこそ世界のポップなサウンドをリードしていました。今もなお、J-POPならではの繊細なバランスと厚みのある音作りは、実は先端的で、個人的に大きな魅力だと感じているので、そうした特性を活かしてほしいとは思います。実際、日本のシティポップを韓国のアーティストが再解釈するようなケースも増えています。また、KOHHのように海外でも受けるラッパーが出てきているのも興味深いです。彼が持つグローバルなシーンに対する欲望は、K-POPシーンのラッパーとも通じるところがある。その意味で日韓の音楽空間はどんどんフラットになりつつあると思います。特にブラックミュージック界隈のシーンは、今後はアジア全体でお互いに意識して刺激しあっていくようになると思うので、その中で新しいコラボレーションが生まれて、結果を出していくところが見てみたいですね。例えば、日本のテクノロジーによって生まれた新しいサウンドやビートを、韓国のアーティストが活用して新しい音楽を表現するのも、立派なコラボレーションだと思います。人と人の繋がりだけではなく、いろんなレベルでの融合が起こると面白いのでは。

ーーサウンド面でのコラボレーションにも期待したいと。

金:K-POPはアメリカのブラックミュージックだけではなく、J-POPのサウンドからも大きな影響を受けていて、今後もそれは続くと思います。日本のテレビ的な文化の中では、J-POPのサウンドのクオリティの高さはあまり感じられないのかもしれないけれど、アジアのミュージシャンはみんな日本のサウンドに注目しているはず。極限まで繊細にバランスを整えたサウンドは、日本の職人文化の為せる業です。ポップというのは常に変化するものなので、今後どう転ぶかはわからないですが、少なくともそうした日本のサウンドメイキングは今後も変わらず大きな武器になっていくと思います。

(取材・構成=松田広宣)

■商品情報
『K-POP 新感覚のメディア』(岩波新書)
著者:金 成玟 著
価格:840円+税
発売中
ISBN:9784004317302
体裁:新書、256頁
岩波書店HP

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