GRAPEVINE、レア曲披露で届けた『club circuit』の醍醐味 21周年記念ツアーファイナル

 GRAPEVINEが11月27日、『GRAPEVINE club circuit 2018』(全11公演)の最終公演を東京・新木場Studio Coastにて開催した。2015年『club circuit 2015』以来、3年ぶりのクラブサーキットツアーのファイナルで彼らは、新旧織り交ぜたセットリストでオーディエンスを魅了した。

 開場前のSEは1940年代あたりの歌モノのジャズ(「How Many Times Do I Have to Tell You?」など)。フロアは観客でぎっしり埋まっているが、ロマンティックなBGMによって、どこかシックな雰囲気が漂っている。

 19時を少し過ぎた頃、照明が落とされ、メンバーがひとりひとりステージに登場。「はい、こんばんは、新木場トーキョー。旅から帰ってきたぜ。よし、じゃあ今日も始めていきましょう。よろしく!」(田中和将)という挨拶から、1曲目の「ピカロ」(2011年『真昼のストレンジランド』収録)。打ち込みのドラムに合わせて亀井亨(Dr)がフレーズを叩き、ゆったりとしたグルーヴが広がる。さらに西川弘剛(Gt)のブルーズ経由のギタープレイ、心地よいサイケデリアをたたえた田中のボーカルが重ねられ、酩酊にも似た感覚が伝わってくる。さらに「SATORI」(2012年『MISOGI EP』)、「1977」(2013年『愚かな者の語ること』収録)を続けて演奏。オープニングから、“これぞGRAPEVINE”と呼ぶべき濃密なバンドアンサンブルが広がっていく。

「お察しの通り、今年は何のリリースもしておりませんので、“21周年記念ツアー”と題してツアーを廻ってきました。最終日だからといって何の感慨も抱いておりません。なぜならば、来年は22周年ツアーがあるからです。今年はフェスにもけっこう出ていて。フェスで見てくれたり、ベスト盤を予習してくれた人もいるかもしれませんが……今日はお客さんを突き放すというスタイルでやろうと思っています(笑)。自由に気楽に、最後まで楽しんでくれたらいいなと。心をあちこちに飛ばして、いろんな想像をしつつ、聴いてくれると嬉しいなと思います」(田中)

 というMCの後も、レアな選曲によるステージを展開。「TOKAKU」(アルバム『BABEL,BABEL』収録)、「その日、三十度以上」(シングル『ふれていたい』収録)など、ライブでほとんど演奏されていなかった楽曲が次々と披露される。GRAPEVINEは新作のリリースツアーでも、過去のレアな楽曲をステージに上げるのが定番。今回のツアーは、その拡大版と言ってもいいだろう(終演後、メンバーに挨拶したときも「アルバムのリリースツアーでやって以来の曲もけっこうありましたね」「7割くらいは久々の曲でした」と話していた)。

 イントロが始まるたびに「おぉ!」という驚きと喜びが混ざった歓声を上げるオーディエンスも、この貴重な機会を心から楽しんでいるようだった。一般的に知られているシングル曲、「CORE」「豚の皿」といったライブアンセムを外すことで(ふだんは感じることができない)バンドの様々な表現をダイレクトに示すーーそれこそが、今回の『club circuit』ツアーの醍醐味だったと思う。その根底にあるのは、“君らはこういうセットリストでも楽しめるやろ?”というオーディエンスに対する信頼感、そして、“このバンドの音楽を隅々まで堪能したい”というバンドに向けられた強い欲望だろう。

 90年代後半〜00年代前半のオルタナブルース、音響系、インディー系ギターロックなどのテイストを独創的なアンサンブル、卓越した演奏センスによって、唯一無二としか言いようがない音楽世界を築き上げてきたGRAPEVINE。この日の演奏からも、20年以上のキャリアのなかで培われたオリジナリティ溢れる楽曲をたっぷりと体感することができた。揺れが少なく、まるで打ち込みのトラックのように正確なビートを刻み続ける亀井のドラム、いい意味で“弾き過ぎず”、印象的なフレージングと音色で楽曲のムードを増幅させる西川のギター、そして、まるで絵画を鑑賞したり、ロードムービーを観ているような感覚に誘われる田中のボーカル。さらに金戸覚による骨太のベースライン、高野勲の色彩豊かなキーボードが加わり、美しさ、激しさ、奥深さ、危うさを同時に描き出すサウンドデザインが立ち上がる。観客と一緒に手を上げたり、シンガロングするシーンが今回はなくとも、ライブが進むにつれて、深くて強い感動が伝わってきた。

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