橋本徹が語る、スガ シカオとFree Soulの共通点 「どちらもある種オルタナティブな存在だった」

橋本徹が語る、スガ シカオの魅力

音楽ファンに対して開かれたプロダクトに

ーーコンピレーションの全体の構成について、先ほど起承転結をつけて、と話していました。流れを作る上で意識したことや橋本さんならではの聴きどころを具体的に教えてください。

橋本:今回は音楽ファンに対して開かれたプロダクトにしたい、ってのがすごくありましたから、流れの良さにはもちろん必然的に気を配りました。DJをするようにひと筆描きのように曲順を決めたという話をさっきしましたけど、Free Soulファンにスガ シカオの魅力を伝えたい、感じてほしいということと同時に、スガ シカオのファンにもFree Soulの魅力を感じてほしいというのがあったので、自然とそこには気を遣って流れや勢いを大切に選曲していると思います。

ーーディスク1の前半はそれを体現するような流れですね。

橋本:一方でより陰影に富んだ構成という意味では、ディスク2の後半が「月とナイフ」「アーケード」で“わびさび”を漂わせながら終わって、最後にもう一回「愛について」と「黄金の月」という代表作のライブバージョンを入れているんです。これは等身大のいちソウルマンとしてのスガ シカオの魅力が伝わる素晴らしいバージョンだと僕は思うので、このエンディングにはこだわりました。それによって余情みたいなものが生まれたんじゃないかと思いますね。

ーー僕も最後の2曲は映画でいうところのエンドロール的な感じだな、と思いながら聴いていました。

橋本:フラッシュバックとかね。最後は余韻を残しつつ、という。

ーーFree Soulのファンに楽しめるように、というのと、スガさんのファンに興味を持ってもらえるように、という言葉がありましたが、両者の接点はどういうところだと思いますか?

橋本:今まで話してきたような、70年代ソウル~ファンクといった音楽性的な部分はもちろんあるんだけど、一番大きいのは当初、どちらもある種オルタナティブな存在だったというところかな。

ーーなるほど。

橋本:それでいて、聴き手を拒まないというか、変に妥協したり目線を低くしたりするってことではない、オープンな姿勢で音楽を届けてきたところ。スガさんはソウルやファンクに根ざしながらTVにも出るし有名アーティストともコラボレーションしたり、Free Soulも一見マニアックなことをやっている印象があるかもしれないけど、実際には全然そんなことはなくて。クラブのDJパーティーに根ざしてアンダーグラウンドなところからスタートしているから、当時のメインストリームに対してはオルタナティブな存在だったわけだけど。

ーーでも、別にそんな難しいものではないと。

橋本:うん、お茶の間感覚で聴いても魅力が伝わるものを選択しているので、そういう部分が近いかなって。

ーー確かに、オルタナティブっていうのが両者の共通点のひとつなのかな、っていうのは僕も思いました。あとは、橋本さんが94年にFree Soulを始めて、スガさんも90年代後半にデビューしたわけだけれど、その頃は“オルタナティブ”が時代のキーワードになっていましたよね。

橋本:ディアンジェロとかにも象徴されるオルタナティブR&B的な感覚、実際にはオルタナティブなものがメジャーになっていくわけだけども、出発点はそこなんだよね。そういうあり方というのがスガ シカオさんの凄いところだな、って思いながら見てますけど。

ーー僕もさっきふと思ったんですが、一時期からはすごくメジャーな人じゃないですか。でも、そういうところにいながら良い意味でマニアックさも失っていない。

橋本:そういう要素を忍び込ませてくるよね、音楽愛というか。今でもボン・イヴェールやジェイムス・ブレイクが好きなんて話していたりして、リスナーとしての好奇心を失っていないから。どうしてもメジャーなミュージシャンやアーティストって、現在進行形の音楽に対する興味がだんだん失われてしまうケースもあると思うんだけど、偏執狂的な音楽ファンとしてのカラーはいまだに滲んでるよね(笑)。

ーーそのへんが絶妙なバランス感覚ですよね。

橋本:決して回顧的になりすぎないし。温故知新的な部分と、現在進行形の両立という意味でも、Free Soulとスガ シカオは共通してるんじゃないかと思いますけどね。なんて言うと恐れ多いですけど(笑)。

SMAPとスガ シカオは“青春の光と影”

ーーでも本当にそうですね。橋本さんも70年代のソウルミュージックっていうところで最初はFree Soulのコンピレーションを作っていたわけですけど、『Free Soul 90s』とか『Free Soul~2010s Urban』とか、現在進行形の音源でもシリーズを作っています。すごく納得しました。スガ シカオは村上春樹がすごく好きで、逆に村上春樹もスガさんの音楽が好きで、彼の音楽書『意味がなければスイングはない』の中で1章割いて書いていたり、現在のところスガさんの最新作である『THE LAST』でライナーノーツを書いていて、そういうところでの蜜月みたいなものがあるんですけど、橋本さんも村上春樹がお好きなので、両者の共通点など思うことがあったら教えてください。

橋本:情景の描き方とかはお互いが好意を寄せ合うのがわかる気がしますね。触感的なところとか、あとは季節を描きこんでくるところとかもね。情景の描き方で象徴的なのは、『1Q84』の千倉の療養所のシーンと「木曜日、見舞いにいく」。あの曲は僕もそれを意識せずにはもはや聴けない(笑)。

ーー同感です(笑)。

橋本:それと個人的には、スガ シカオさんとは同世代なわけなんですけども、自分が今回選曲していてふと思ったことがあって。僕は17歳くらいからいろんな音楽を掘り下げて聴いていくようになるんですけど、それ以前はまだラジオやTVで流れる曲を聴いたり、日本のアーティストを聴いていたり、って感じだったんですよ。それで15歳のときに好きになったのがユーミンで、16歳のときに佐野元春を好きになって彼のFM番組の影響を受けて。で、17歳のときに出会ったのが村上春樹なんです。

ーーああー、なるほど。

橋本:『羊をめぐる冒険』。で、ユーミンと佐野元春と村上春樹って、全部スガさんも好きなんでしょ? そこに同世代感と、共感と近親憎悪が入り混じった感じがありますね(笑)。

ーーシンパシーを感じつつも……。

橋本:逆ですね(笑)。近親憎悪を感じつつもシンパシーを感じるというところがあるかもしれないな。

ーーなるほど。同世代的な感覚っていうのはすごくわかる気がします。

橋本:逆に言うとユーミンや佐野元春や村上春樹をスガさんも好きだというのは、当然あとから情報として知ったわけだけど、それはすごく自分としても納得がいくというか。「ああ、だから自分もスガ シカオの作品に惹かれるところがあるんだ」と。あとは村上春樹とスガ シカオってことでいえば、自分の中では戦争を止める男であってほしいという願いがありますね。

ーースガ シカオっていう名前は本名なんですけど、「止戈男」っていう名前がそういう意味なんですよね。

橋本:やっぱりお二人とも大きな影響力と意志を持っている人だし、二人とも芯のある方だから、いざというときに戦争を止める男になってくれるんじゃないかな、という思いはあります。もちろん自分も微力ながら声を上げたいと思っていますが。

ーーうん、いい話ですね。では、橋本さんが考える『フリー・ソウル・スガ シカオ』を聴くのに最適なシチュエーションはありますか? 個人的にこういう場面で聴きたい、というのでもいいですけど。

橋本:グルーヴ感のあるサウンド、という意味では、やっぱりドライブのときに聴いてもらえたら、いい感じだと思いますね。あとは、自分はけっこう多いんだけど、ベッドに入って目を閉じて、寝ながら聴くのもすごく歌詞の世界が入ってきて好きですね。そうやってじっくり聴いてもらうっていうのもいいんじゃないかな、と思うし。まあ硬軟自在、老若男女楽しんでいただけるようなものになっているのではないかと思うのですが(笑)。

ーーでは最後に、橋本さんが『フリー・ソウル・スガ シカオ』にキャッチコピーをつけるなら?

橋本:帯裏にもあるけど、〈世界中にあふれているため息と 君とぼくの甘酸っぱい挫折に捧ぐ〉というのは、もうこれ以上ない決めのフレーズだなと思いますね。やっぱりこのコンピレーションや選曲に込めた思いとかも体現されてる言葉だなと思うので。今となっては「Progress」がいちばん有名な曲なわけでしょ?

ーーオリジナルはスガさんがボーカルを務めるkōkuaで、『プロフェッショナル 仕事の流儀』挿入歌ですね。

橋本:それともうひとつ言うなら、〈夜空のむこうには もう明日が待っている〉っていうフレーズだよね。

ーーさっき、橋本さんが時代感のことも含めて話していましたね。

橋本:今回の感じだと「Progress」の一節の方が、内容的にもスガ シカオさんの音楽にも自分の選曲にも合ってると思うんだけれども、その裏には〈夜空のむこうには もう明日が待っている〉という、スガ シカオにしてはロマンティックな、温かい感じがあるからみんな惹かれるんじゃないかとも思うんですよね。

ーー先ほどの話じゃないですけど、SMAPっていうキャラクターがあの曲を歌うことによって、青春の陰と陽みたいなものが表現されるのかな、と思いました。Free Soulにも青春ぽさというか蒼さというか、あの歌詞が持っている世界観とつながるところが強くあるのかな、と思いますし。

橋本:そうそう、本当にSMAPとスガ シカオは“青春の光と影”ですよね。そこを表現できたらっていうのは、Free Soulという連続体、運動体では強く意識していることだし、この『フリー・ソウル・スガ シカオ』というコンピレーション単体でも伝えることができたらと思っていました。

ーーこれしかない、という締めになりましたね(笑)。今日はどうもありがとうございました。

(取材・文=waltznova)

スガ シカオ『フリー・ソウル・スガ シカオ』

■商品情報
『フリー・ソウル・スガ シカオ』
11月28日(水)発売
2CD:¥2,980(税抜)

DISC 1
1. 黄金の月
2. 光の川
3. June
4. 8月のセレナーデ
5. 愛について
6. グッド・バイ
7. 夕立ち
8. Progress / kokua
9. ホームにて
10. 夏祭り
11. ひとりごと
12. サナギ  ~theme from xxxHOLiC the movie~
13. カラッポ
14. 前人未到のハイジャンプ
15. オバケエントツ
16. 夜空ノムコウ (Live)
17. 夏陰 ~なつかげ~

DISC 2 
1. 夜明けまえ (Live)
2. 海賊と黒い海
3. 青空
4. SPIRIT
5. ストーリー
6. 1/3000ピース
7. ぬれた靴
8. サヨナラ
9. 秘密
10. AFFAIR
11. たとえば朝のバス停で
12. 木曜日、見舞いにいく
13. ココニイルコト
14. ふたりのかげ
15. 月とナイフ
16. アーケード
17. 愛について (Live)
18. 黄金の月 (Live)

■橋本徹(SUBURBIA)
編集者/選曲家/DJ/プロデューサー。サバービア・ファクトリー主宰。渋谷の「カフェ・アプレミディ」「アプレミディ・セレソン」店主。『フリー・ソウル』『メロウ・ビーツ』『アプレミディ』『ジャズ・シュプリーム』『音楽のある風景』『Good Mellows』シリーズなど、選曲を手がけたコンピCDは340枚を越える。USENで音楽放送チャンネル「usen for Cafe Apres-midi」「usen for Free Soul」を監修・制作。著書に「Suburbia Suite」「公園通りみぎひだり」「公園通りの午後」「公園通りに吹く風は」「公園通りの春夏秋冬」などがある。http://apres-midi.biz

 

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