フジファブリックの新旧楽曲が相次いで話題に 体制変化後も継承されるグループの音楽性を探る

 ギターもキーボードもいるバンドとして様々なタイプの曲を作ってきたフジファブリックは、アルバムごとにサウンドやアレンジの幅を広げてきた。『FAB FIVE』では、映画『ここは退屈迎えに来て』の主題歌「Water Lily Flower」(作詞作曲:山内)が新味となっている。ギターのアルペジオに沿って起伏を作っていく曲は、過去の彼らにあまりなかったものだ。

 これに対し、ピアノのリフで始まる「電光石火」(作詞作曲:山内)は、志村時代の「Sugar!!」と同じく『J SPORTS STADIUM 2018 プロ野球中継』のテーマソング。ビート重視でスピード感を強調したサウンドを前回から受け継いでいる点で、バンドの連続性を感じさせる。

 『メディアタイムズ』(NHK総合)テーマソングの「1/365」(作詞作曲:加藤)は、オールディーズ風のキャッチーな曲。かつて志村はPUFFYに「Bye Bye」を書き、フジファブリック版も『MUSIC』に収録されたが、「1/365」は彼女たちが得意とする曲調に近い。いつかPUFFYがカバーしてくれたらと思ってしまった。

 「カンヌの休日 feat.山田孝之」(作詞作曲:フジファブリック)は、ドキュメンタリードラマ『山田孝之のカンヌ映画祭』(テレビ東京系)のオープニングテーマとなった元気なロックンロールで、この人気俳優をゲストボーカルに迎えつつ、詞にはカンヌ映画祭受賞作のタイトルを詰めこんだ遊戯的な内容になっている。

 それとは対照的に、Canonのショートムービー『僕たちは今日、お別れします』のテーマソング「かくれんぼ」(作詞作曲:金澤)は、夕暮れ、月明かりでのかくれんぼを題材にして孤独、別れを歌ったバラードで、フジファブリックらしい叙情性に満ちている。

 このミニアルバムにはバラエティに富んだ楽曲が並んでおり、今のフジファブリックが自分たちに枠を設けず、自由にロックやポップと取り組んでいる充実感が伝わってくる。振り返ってみれば、フジファブリックがインディーズ時代の2002年に制作し、「茜色の夕日」初期バージョンも収録していた最初のミニアルバムは、『アラカルト』と題されていた。アラカルトとは、コース料理ではなく、客が好みで注文する一品ずつの料理を指す。『アラカルト』制作時にもちろん志村はバンドに在籍していたが、加藤、金澤、そして山内が加入したのはもう少し後のことだった。しかし今、3人で作った『FAB FIVE』は、見事なアラカルトになっている。やはり彼らは、フジファブリックのバトンを受け取るべき人たちだったのだ。

■円堂都司昭
文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)、『戦後サブカル年代記』(青土社)など。

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