the pillowsが30年愛され続ける理由ーーバンドの奇跡の軌跡を辿る
人間くささがほとばしるようなロックを鳴らした、最新作『REBROADCAST』
そして29年目となる今年。最新アルバム『REBROADCAST』はthe pillowsの魅力が集約されたギターロックアルバムだ。そう、これぞthe pillows! といった印象を抱く作品なのである。
ただ、今度のアルバムについては……とくにオルタナサウンドが響いているぶん、かつての彼らとの若干の違いも感じる。音も歌も、山中の言葉も、どこかメロウなのだ。
1曲目のタイトルナンバーは勢いのあるギターロックだが、実は「やり直し」を願う曲である。「再放送」という意味の題名ともども、そこには今の山中のリアルさがにじんでいる。
また、現代社会への批評性が感じられる「ニンゲンドモ」には、憤りや悲しみが根底にありながらも、そのギターサウンドはトガってはいない。むしろ優しさや希望を込めているかのように響く。
ラストの「Before going to bed」は、英語で〈人生は一度きりだ/苦しんだ日々よ/つらかったけどオレは成長した〉〈最愛の人に感謝を伝えたいな〉と唄われる、エモーショナルなナンバーだ。自分が生きてきた道を振り返るようなこの歌に、そしてアルバム全体に、若かりし頃には想像できなかった山中の姿を見る思いがする。
くり返しになるが、the pillowsの歌の魅力は、みずみずしく、そこに青さ、切なさがつねにあるところだと思う。そしてその中には、ロマンチシズムが……それも、どんなに報われなくても、どんなにしんどくても、自分が信じているものだけは見失わない! という強い意志が寄り添っている。それはまさに山中さわおという人間そのものであり、また、夢を追う、あるいは、夢を諦めきれない人々の心に火を灯すような歌になっているはずだ。そして、火を灯された人々が、今度はthe pillowsをずっと支え続けている。
『REBROADCAST』にもそうした部分は確実に息づいている。だけど、ちょっとだけ、ほんの少しだけだが、今までよりも優しいし、あたたかい気がするのだ。思えば、ずっと少年のようなルックスの山中も、もう50代。カドが取れたり、心が広くなることがあっても、何も不思議ではない。
だけど、おそらくではあるが、彼の芯の部分は揺らいでいない。山中はそういう男だ。それは、それこそ〈つらかったけどオレは成長した〉という過程の中で、そうした硬派な生き方が備わっていったのだと思う。
30周年を迎えるthe pillowsには、そうした人間くささがほとばしるようなロックを、思いっきり鳴らしてほしいと思う。
(文=青木優)