ゴールデンボンバー、V系の“様式美”詰め込んだ「暴れ曲」が示すもの シーンの動向から考察
9月13日に配信された、ゴールデンボンバーの新曲「暴れ曲」が話題を呼んでいる。
「暴れ曲」は7月に埼玉・さいたまスーパーアリーナにて開催された『キラーチューンしかやらねえよ』のアンコールにて初披露。MCにてこの曲が生まれた経緯を鬼龍院翔は「ファンレターで、『ヴィジュアル系らしい“暴れ曲”は作らないんですか?』という意見をもらった」と説明していた。さて、熱心なヴィジュアル系ファン以外の読者はこう思うだろう「“暴れ曲”って何?」と。
ざっくり説明すると、名前の通り“暴れるための曲”で、ヘッドバンギング(ヘドバン)や、身体を上下に揺らす“折りたたみ”(だいたいブレイクダウンする時に行われる)、ヘドバンと拳を上げる動作を同時に行う“拳ヘドバン”などを存分にできるような構成の曲を指す。バンド側がそれを望んでいるかどうかは不明だが、目まぐるしい展開の多い楽曲を、いわば“音ゲー”のように楽しんでいるファンも少なくはない。
2014年に上梓された、南田勝也の『オルタナティブロックの社会学』(花伝社)では、オルタナティブ以降のロックは、サウンドの変化、大規模フェスの一般化、PA環境の変化etc……様々な要因で「表現の美」から、「スポーツの美」へ形を変えていると指摘している。フロアの作法が身体性をともなった「スポーツ」と化しているのは、ヴィジュアル系シーンも例外ではないということだ。
また、鬼龍院は先述のライブMCにて、「『†ザ・V系っぽい曲†』の現代版を作った」とも発言していた。「†ザ・V系っぽい曲†」は、世間のイメージするヴィジュアル系っぽいサウンドにのせて、〈別格のバンドが地元へ来てくれるけど試験とかぶってるorz〉と“バンギャルあるある”を歌い上げ、謎の語り、急に差し込まれるガラスの割れる音など、“ヴィジュアル系あるある"も盛り込んでおり、その芸の細かさからファンから大受けし、2009年発表の曲ながら現在のライブでも定番になっている。
「暴れ曲」も畳み掛けるようなイントロ、Aメロのデスボイス、サビ前に差し込まれるコーラス、急にキャッチーになるサビ……と、近年のヴィジュアル系“暴れ曲”の様式美が詰め込まれている。ちなみに鬼龍院自身はブログにて、この曲の制作前にアルルカン、キズ、lynch.のライブを観に行ったと述べていた(参考:翔さん、燃え尽きてる場合じゃないのよ/「キリショー☆ブログ」)。
lynch.はゼロ年代後半から、ラウドなサウンドで多くのフォロワーを生み出してきたバンドだ(参考記事:lynch.が再び”完全体”となるーー幕張メッセ公演前に、逆境乗り越えてきた13年の軌跡を振り返る)。余談だが樽美酒研二(Doramu)もかねてからlynch.の大ファンであると公言している。アルルカンもlynch.的な激しさとキャッチーなメロディを両立させ、一時期は“ワンマンのチケットが取れないバンド”と称されたほど(参考記事:アルルカン、NOCTURNAL BLOODLUST、DOG in ThePWO…V系シーンに挑む次世代バンドたち
)。そして昨年結成され、約1年余りでZeppTokyo公演を成功させたキズ(参考記事:Far East Dizain、JILUKA、DEVILOOF……独自の進化遂げるV系シーン新進気鋭のバンドたち)。
どのバンドも現代のヴィジュアル系シーンを語るのに欠かせない存在で、鬼龍院の目利き能力が発揮されたといえる。
また、配信リリースと同時にYouTubeにも動画「【バンギャが】暴れ曲/ゴールデンボンバー【暴れてみた】」がアップロードされた。ちなみに先述の鬼龍院のブログでも言及されていたが、「【バンギャが】【暴れてみた】」というタイトルで、the GazettEやDEZERTなど、2010年代の“暴れ曲”を披露している人気動画シリーズがある。このゴールデンボンバーの動画は、構図、ファッションの系統から、使用しているカラオケチェーン店(おそらくはコート・ダジュールの「ステージルーム」)まで限りなく寄せてきているのも芸が細かい。尋常じゃない動きで暴れまくるゴールデンボンバーのメンバーが面白すぎることもあって(樽美酒研二に限っては、もはや下着が見えている)、公開されて間もなくYouTubeの注目動画にもランクインしていた。金爆の“ギミック”は今回も成功したのではないだろうか。