PassCodeは攻めの姿勢を崩さないーー『Tonight / Taking you out』に見る新たなフェーズ

PassCodeは攻めの姿勢を崩さない

 パンク、メタル、ラウドロックといった激しいサウンドを武器とするアイドルは、今となっては珍しくないが、ここに至るまでにさまざまなグループの活躍によって切り拓かれた現状であることは言うまでもないだろう。「スクリームするアイドル」として、アイドルファンのみならず、多くのロックファンの心をも掴んだPassCodeも、そうしたシーンの裾野を広げたグループだ。メタルバンドのボーカリストを凌駕するほどのけたたましい咆哮が、従来のアイドルにおける既成概念を崩していった。昨今のライブアイドルシーンを見渡せば、彼女たちのフォロワーともいえるエクストリームアイドルたちが賑わいを見せているのだから「すごい時代になった」と感じると同時に、その影響力の大きさを思い知らされる。

 そんなPassCodeが放つニューシングルは、他の追随を許さない圧倒的な貫禄を漂わせながら、攻めの姿勢を崩さない両A面の2曲である。突き抜ける美メロディが疾走していく「Tonight」と、息つく暇すら与えない畳み掛けで聴き手を翻弄していく「Taking you out」。どちらもPassCodeの魅力を存分に表したものであり、グループとしてより強靭になった現在の姿を提示しながら、新たな可能性をも感じさせる楽曲だ。

PassCode - Tonight

 流麗な調べではじまる「Tonight」。今田夢菜のシャウトで堰を切ったように襲い掛かるラウドな音の洪水も、加速度を増しながら歌メロに寄り添っていく。巧みに緩急をつけていくアンサンブルは、どこか叙情的な趣を感じさせるメロディを引き立たせる。

 PassCodeの音楽は、ダウンチューニングを用いたヘヴィなバンドサウンドとEDMを織り交ぜたエレクトロニコア、日本ではピコリーモとも呼ばれるサウンドを軸に、エフェクトを効かせた無機質的なボーカルを据えているのが特徴である。そして、今田のスクリームがフックにもなって、リミックスにおけるマッシュアップにすら通ずる、狂気を感じるほどの急激な展開と転調を繰り返しながら、目まぐるしいほどのスリリングさで魅了していく。反面で、クリーンのボーカルパートをみれば、耳馴染んだエレクトロポップのようであり、駆け抜けていくメロディは、往年のハードロックやメロコアを彷彿とさせる、熱さにの中に感じる親しみやすさと懐かしさがある。さまざまな要素が複雑に絡み合いながらも楽曲が破綻せずに成立しているのは、緻密に構築された楽曲展開と、何よりもメロディの良さから生まれるキャッチーさがあるからだろう。

PassCode - Taking you out

 今田の邪悪なシャウトではじまる「Taking you out」は、PassCodeの真骨頂ともいうべき、予想だにしない展開が強襲するナンバーだ。ヘヴィなリフと疾走感溢れるメロディ、不意を突いた強烈なブレイクダウンまで、バンド顔負けのPassCodeが誇る“カッコよさ”が凝縮されている。さらに、これまでよりも中低音に軸をおいたギターを中心とするサウンドプロダクトが、アンサンブルの“重力”を持った歪みを強調させ、よりヘヴィなグルーヴを引き立たせる。ゴシックメタル、インダストリアルメタル、ジェント(Djent)までも飲み込む、PassCode流モダンヘヴィネスが新たなフェーズに突入していることがわかる。

 サウンドだけではなく、メンバー各々の成長も注目すべきところだ。「Taking you out」は今田のスクリームが肝になっているものの、クリーンボーカルから豹変してシャウトで今田に絡んでいく高嶋楓にハッとさせられる。“シャウトの掛け合い”という武器が、今後のPassCodeの振り幅をさらに拡げていくことになるのかもしれない。そして、オートチューンボイスの無機質さの中に垣間見える滑らかな大上陽奈子と煌びやかに響く南菜生の歌声が、いつも以上に表情豊かに耳に届くのは、エフェクトの掛かりが浅くなったから……というわけではないはずだ。

今田夢菜
南菜生
高嶋楓
大上陽奈子
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今田夢菜
南菜生
高嶋楓
大上陽奈子
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 前シングル曲「Ray」がPassCodeには珍しく、王道ポップス路線だったのは「どんな楽曲でもPassCodeになる」という自信と、なによりも彼女たちの、いちボーカリストとしての成長があったからこそ作られた楽曲であったように思う。歌に対して余裕が生まれたともいうべきだろう。もっとも、メジャーデビュー以降ならびに、「アイドル×ラウドロック」の金字塔を打ち立てたアルバム『ZENITH』(2017年)で彼女たちの存在を知ったリスナーも、インディーズ時代の楽曲の再構築アルバム『Locus』(2018年)を聴けば、単に「スクリームするアイドル」という言葉だけでは片付けられない、“遊び心”に気付くはずである。

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