NakamuraEmiが歌で表現する“コミュニケーション”の大切さ EX THEATER ROPPONGI公演レポ
NakamuraEmiが6月27日、EX THEATER ROPPONGIにて全国ツアー『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5~Release Tour 2018~』の東京公演を行った。3月にリリースされた最新アルバム『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.5』を携えて行われた同ツアーは、ギタリスト/プロデューサーのカワムラヒロシと2人編成で全国17カ所、バンド編成で福岡、高松、東京、大阪、名古屋の5カ所でライブを開催。同公演はキャリアの中で最大キャパシティのライブとなった。
『NIPPONNO ONNAWO UTAU』シリーズは、まだ彼女がインディーズだった2012年からリリースされており、メジャーデビューした2016年に一枚BEST盤を挟み、今作でVol.5。「いつか素敵な日本人らしい女性になれますように」をコンセプトに掲げ、NakamuraEmiの視点で切り取られた日常の風景が描かれていく同シリーズだが、Vol.5は「人と人とのコミュニケーション」もひとつ大きなテーマになっているという。ライブはアルバムの1曲目を飾る「Don’t」から勢いよくスタートした。カワムラヒロシのアコースティックギターが鳴り、続くようにTomo Kanno(Dr)、大塚雄士(Per)、鹿島達也(Ba)が跳ねるようなビートを響かせると観客の体も自然と揺れ出す。NakamuraEmiの巧みなフロウ、それに呼応する観客のクラップ音もあいまって、冒頭から会場は心地良いグルーヴに包まれた。
NakamuraEmiは社会人として働きながら2007年にアーティスト活動を始め、33歳の2016年に『NIPPONNO ONNAWO UTAU BEST』でメジャーデビュー。遅咲きと言えるかもしれないが、二足の草鞋で豊富な人生経験を積んできた分、彼女にしか見えない風景があり、歌詞に込められたメッセージはズンと響く重みがある。「大人の言うことを聞け」「かかってこいよ」といった挑発的なタイトルのナンバーも、大人や子どもに対する教訓、社会に対する鋭い風刺、彼女の軽快な歌声から飛び出す皮肉めいた言葉は痛快だが、同時に聞き手の胸をチクリと指す。作品を重ねる毎にアップデートを見せてきたNakamuraEmi。「NIPPONNO ONNAWO UTAU」というテーマを飛び越え、彼女の声は今、性別や世代に関わらず訴えかけるものがあると感じずにはいられない。
「波を待つのさ」の後にはバラードを数曲。彼女は持ち前の力強く伸びやかな歌声で会場を包み込む。「星なんて言わず」では、メランコリックなメロディに乗せ、情感たっぷりに、大切な人との別れと再生を綴った歌詞を丁寧に歌い上げた。ライブ中、次に歌う楽曲のバックストーリーを丁寧に話す姿が印象的だったが、きっとNakamuraEmiは“伝えること”の大切さを良く知っている。それを象徴しているのが「新聞」だろう。携帯電話やSNSといったテクノロジーの発達で得たもの、そして失いつつあるもの。自分の人生経験の中で得た大切なものを、彼女なりの表現で伝える歌。ライブ前半で見せたグサグサと胸に突き刺さるような歌声とはまったく異なる、じわじわと広がる優しい歌声。ボーカリストとしての引き出しの多さ、多彩な表現力で観客を圧倒した。