THE BACK HORNが体現する“生きる”ということ 20年の総括みせた『情景泥棒ファイナル』レポ

THE BACK HORN、情景泥棒ファイナルレポ

 5月20日、Zepp DiverCity TOKYOにて開催された『THE BACK HORN 20th Anniversary『KYO-MEIワンマンライブ』~情景泥棒ファイナル~』は、いい意味で非常にツアーファイナルらしくないツアーファイナルだった。重く堅苦しい雰囲気は一切なし。爆発しっ放し。それでいて構築された抑揚もあり、何よりステージとフロアの距離が近かった。というかほぼゼロ距離だった。

 『情景泥棒』がミニアルバムという形態で発売された時から、リリースツアーは新曲に加えて20年を総括するようなセットリストにしたい、という意図が明確に感じられた。アルバムであればどうしても新曲の割合が多くなる。対バン公演ならなおさらだ。実際「幾千光年の孤独」「赤眼の路上」「桜雪」といった初期曲、「ラフレシア」「雷電」「導火線」という披露される機会の少なかった楽曲など、リクエスト企画の結果にも応じた、彼らのあらゆる面が凝縮された素晴らしいライブだったと思う。この20年でようやく発射台が整い、理想とするパフォーマンスができ始めている。そういう確かな充実感が漂っていた。

〈くそがああああああ〉(「がんじがらめ」)
〈絶望/孤独/月明かり〉(「赤眼の路上」)
〈駆け抜けろ 迷いの日々を〉(「光の螺旋」)
〈輝く未来は/この手で開いてゆける/きらめく世界であふれ出す/命が奏でるストーリー〉(「奇跡」)
〈ただ あなたの側に…〉(「儚き獣たち」)
〈傷負って微笑んで/いつまでたっても震えて〉(「Running Away」)
〈野良犬の様な俺達の日々は/死にたくなるほど自由さ〉(「サイレン」)

 世界を睨みつけるしかない、心の奥底に抱えた誰にも言えない弱い自分。どん底のままだっていい、いっそ命を投げ出したいとすら思いながらも、とにかく心臓は動く。時に力づくで焦燥を振り払いつつ、それでも孤独が根付いているからこそ、誰かとつながりたい欲求も芽生えてくる。同時に、愛し、慈しむ安らぎを知れば知るほど、それを失う悲しみも身に染みる。自浄作用のような揺り戻しの中で、点と点で見れば180°真逆の歌もあるかもしれないけれど、裏を返せば喜怒哀楽のすべてがある。上に挙げた楽曲の歌詞は、THE BACK HORNにとっての人生のあらゆる面が歌われている。それが彼らの歌だ。これは長いキャリアを、20年という歳月を積み重ねなければ決して浮かび上がることのない事実だし、“人生に潜む感情って未来人にも盗めない(テクノロジーでは表現できない)情景だよね”、と歌う「情景泥棒」が、20周年のタイミングで生まれたことは極めて象徴的だと思う。

 要するにTHE BACK HORNは、オーディエンスに向けてメッセージを放つというようなバンドではない。生きることそのものを音楽にしているのだ。そういう構造を持つ音楽だから、盛り上がるために作られた一体感ではなく、“生きる”ということがライブ空間で体現される。ステージもフロアもなく、全員がいろいろな感情を蠢かせながら、生きる実感を胸に刻んでいくことができるのだ。この日周りをお客さんに囲まれた花道で、全身全霊を剥き出しにする山田将司(Vo)は、まさに命の輝きを放っていた。

 感情を表現するためには、感情的でない部分が鍵になってくる。タイムキーパーたる松田晋二(Dr)が生来のタイム感でどす黒いグルーヴを生んだ「罠」、パッシブベースを操る岡峰光舟がダイナミクスの陰影で魅せた「墓石フィーバー」「刃」。そして菅波栄純(Gt)の全編にわたるフェザータッチ~掻き鳴らし。特に菅波は、「コバルトブルー」のリフだけはピッキングの仕方がほかと違うが、その中でも今年に入ってまた変わった印象がある。掌を握らないことで、より発音の安定感が増しているのだ。エモーションをぶっ放すだけではうまく鳴らない楽器の響かせ方、あるいはアンサンブルの完成度に、20年の研鑽による積み重ねがしっかりと刻まれている。

 ちなみに今回、ギターもベースもワイアレスシステムを導入していた。だから花道を含め、菅波&岡峰コンビが縦横無尽に動き回ることができたのだ。さらに『ARABAKI ROCK FEST.18』でもライブを観たけれど、相変わらず音源とは別種の音作りがされており、野外の1万人規模のステージでもめちゃくちゃ音が抜けていた。つまり今の彼らは、ステージ上も外音も、ライブハウスだろうとバカでかい会場だろうと、場所を選ばずどこでだって爆音爆裂のライブをできるということなのだ。

 次のツアーは新宿LOFTに始まり、ファイナルは日本武道館である。「まだまだ祝われ足りてねえから」「また生きて会おうぜ!」。山田が口にしたその言葉を大切に抱きしめながら、また会う日までの日々を歩んでいこうと思う。

(文=秋摩竜太郎/橋本塁(SOUND SHOOTER))

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