mol-74が見せた4ピースバンドとしての“再生” 『▷(Saisei)』ツアーファイナルを振り返る

mol-74、4ピースとしての“再生”

「最後、<夜は、明ける>という言葉でこのアルバムは終わってるんですけど。本当に今年の僕たちは夜が明けそうなので、みなさん今年、僕たちに期待していてください」(武市和希)

 mol-74(モルカルマイナスナナジュウヨン)が、5月13日に東京・恵比寿LIQUIDROOMにて、『mol-74「▷(Saisei)」release tour』のツアーファイナル、ワンマン公演を開催した。mol-74は、武市和希(Vo/Gt/Key)、井上雄斗(Gt/Cho)、高橋涼馬(Ba)、坂東志洋(Dr)からなる京都発の4ピースバンド。

 彼らがピアノやアコースティックギターといったオーセンティックな機材によって紡ぎ出す楽曲は、北欧のバンドに通じる冷たいサウンドに、武市の透き通るような美しいファルセットボイスが重なることで、どこか心の芯を灯すような温かみを感じさせる。日常にある身近な感情を表現しながらも、パズルのピースをピタリと当てはめたような完璧な音のバランスで、彼らにしかできない幻想的な世界観を生み出している印象だ。

 2017年6月よりサポートベースを務めていた高橋が正式メンバーに加わってから、初めてのリリースとなったミニアルバム『▷(Saisei)』(1月17日発売)を携えて、1月26日から京都 MUSEにて幕を開けた同ツアー。札幌、大阪、福岡と各地を順々に巡り、東京にて約4カ月の集大成を迎えた。ツアー最終日のこの日は、ソールドアウト。立錐の余地もないほど会場を埋め尽くす観客の前で、mol-74は“4ピースバンド”としての新たな“再生”を感じさせた。

 眩しいほどの真っ白な照明の中、登場したmol-74。まずは“冬”をテーマに据えたミニアルバム『▷ (Saisei)』から、「●(Fanfare)」「▷(Saisei)」「▷▷(夜行)」と立て続けに3曲を披露。武市の高音のフェイクが耳にダイレクトに入ってくる「●(Fanfare)」では、坂東の安定したバスドラの低音が心地よい。彼らの冷たく温度を持たないアンサンブルに、一瞬で心を持っていかれる。続く、「▷(Saisei)」では、井上のボウイング奏法(ヴァイオリンの弓でギターを弾く)が光り、青にオレンジの照明がまるで星空のように輝き出す。<夜明けの魔法を唱えるように><答えを失った僕が待っていた><いつか僕らは生まれ変われるかな>という武市の透明な歌声と、疾走感溢れる演奏が絶妙に絡み合い、夜から朝へ生命力が漲っていく様を想像させる。「▷▷(夜行)」では、武市の情緒的な歌声と井上の美しい高音のコーラスが会場に響き渡り、悲しくも優しく観客を包み込む。

 ライブ中盤では、3rdミニアルバム『越冬のマーチ』より「アルカレミア」、4thミニアルバム『まるで幻の月をみていたような』より「フローイング」、5thミニアルバム『kanki』より「プラスチックワード」、6thミニアルバム『colors』より「rose」と、これまで大事に育てて来た楽曲たちも披露。繊細かつメランコリックなメロディと重厚感あるバンドアンサンブルで、心地よいグルーヴを生み出していく。それぞれの楽器の揺るぎない音と武市のはっきりと輪郭を持った高い歌声が調和することで、過去の曲たちがまさに再生していくかのような不思議な感覚に陥り、思わず鳥肌が立つ。

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 次いで、燃え殻による小説『ボクたちはみんな大人になれなかった』を題材にした「| | (Frozen Time)」と、同じく『▷(Saisei)』の収録曲「◁◁(瞼)」では、一切の無駄がない最小限の音数で最大限に楽曲の世界観を表現。感傷的な歌詞とメロディに涙するファンの姿も見られた。『kanki』に収められた春を感じさせる楽曲「エイプリル」では、高橋のシンプルだが時にアグレッシブでうねるベースが体の奥底を揺らしていく。自主制作アルバム『ルリタテハ』の収録曲「ノーベル」では、間奏に入ると会場から溢れんばかりの手拍子が送られた。

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