北野創の新譜キュレーション 第3回
神崎エルザ starring ReoNa、halca、XAI……飛躍に期待の若手女性アニソンシンガー新譜5選
ここ最近のアニソン界隈でとりわけ大きなトピックといえば、やはりLiSAのベストアルバムのヒット。『LiSA BEST -Day-』『LiSA BEST -Way-』の2タイトルが同時にリリースされた本作は、発売初週となる5月21日付のオリコン週間アルバムランキングで1位と2位を獲得。女性ソロアーティストとしては浜崎あゆみ、JUJU、西野カナに続く4人目の快挙となりました。パンチのある歌声とそれを活かしたロックな楽曲、卓越したライブパフォーマンスで“ロックヒロイン”の座を勝ち取った彼女ですが、ここまで幅広い支持を得るようになったのはやはりアニメとの関係性があればこそ。今回はそんなLiSAのように、より広大なフィールドで活躍できる可能性を秘めた若手の女性アニソンシンガーによる新譜を紹介します。
まずプッシュしたいのが、現在放送中のTVアニメ『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン(以下、GGO)』(TOKYO MXほか)に登場する歌姫・神崎エルザの劇中曲で歌唱を担当しているReoNa。2017年に開催されたオーディション「SACRA MUSIC AUDITION 2017 SPRING 〜VOCALIST〜」でファイナリストに選出され、この劇中歌で広く世に出たばかりのフレッシュな新人です。彼女はもともと個人でライブ活動などを行っており、そこではJ-POPやボカロ曲に加えてエド・シーラン「The A Team」やGuns N' Roses「Sweet Child O'Mine」といった洋楽のカバーも披露するなど、19歳らしいボーダレスな感性を持ったシンガーと言えるでしょう。
そんな彼女が「神崎エルザ starring ReoNa」として歌う劇中歌は、アニメでのオンエアに合わせて順次配信リリースされており、今のところフォーキーなイントロから解放感あるサビへの展開が素晴らしい「ピルグリム」、ムソルグスキー「展覧会の絵」のメロディを引用した軽やかなポップソング「step, step」、アニメ第5話の戦闘シーンを彩ったアッパーなデジタルチューン「Independence」などが公開。7月4日にはそれらの楽曲をまとめたミニアルバム『ELZA』がCDでリリースされます。どこかボーイッシュにも聴こえる柔らかな歌声は不思議な繊細さも湛えており、その刹那的な響きは聴く者の心を優しく撫でてくれるよう。アニメの原作小説における「クラシックの名曲をアレンジした曲が多数ある」という神崎エルザの設定に準じて作られた楽曲の完成度も含め、『GGO』という作品の魅力を何倍にも高める効果を生んでいます(神崎エルザ曲のほとんどは前回の連載記事で紹介したハヤシケイと毛蟹が制作)。
なお、ReoNaは2018年夏クールの新アニメ『ハッピーシュガーライフ』(MBS・TBS)のエンディングテーマ「SWEET HURT」でソロデビューすることが決定済み。この流れは、かつてTVアニメ『Angel Beats!』の劇中バンドであるGirls Dead Monsterの歌唱担当として人気を集め、そこからソロデビューへと至ったLiSAと同じもの。今後のブレイクが期待される逸材です。
そしてReoNaと同じ<SACRA MUSIC>から待望のメジャーデビューを果たすのが、今期のTVアニメ『ヲタクに恋は難しい』(フジテレビほか)にてエンディングテーマ「キミの隣」を歌っているhalca。2013年にボカロ/アニソン特化型のオーディション『第1回 ウタカツ!オーディション』で準グランプリを獲得した彼女は、2017年に携帯小説サイト・野いちごの10周年記念コンピレーションアルバム『ずっとずっと、大好きな君のそばで。』に初のオリジナル曲「キミの空」で参加。同年に野いちご文庫の小説『32回、好きって言うよ。』のイメージソング「つぶやきレター」を続けて発表し、甘さと爽やかさを併せ持った歌声でピュアな恋愛模様を表現してみせました。
デビュー曲となる「キミの隣」では、友達のような距離感からなかなか進展できない恋人同士のもどかしい感情を、フックを満載したカラフルなサウンドに乗せてキュートに歌唱。『ヲタ恋』の主人公である桃瀬成海と二藤宏嵩の関係性を彷彿させながらも、さまざまな人の共感を呼びそうな恋愛ソングとなっています。同じ『第1回 ウタカツ!オーディション』でグランプリを受賞したことがきっかけで歌手デビューの夢を掴み、現在はCHiCO with HoneyWorksとして日本武道館公演を成功させるほどの人気アーティストとなったCHiCOと同じように、新しい世代の恋愛ソングの旗手として人気を集めるかもしれません。
また、昨年に<SACRA MUSIC>から一足早くデビューしたASCAも見逃せない存在です。2013年に大倉明日香名義でメジャーデビュー経験のある彼女は、その後インディーズでのリリースを経て、2017年にASCAとしての活動を開始。鮮烈さと深みを併せ持った歌声はドラマティックな展開を持った楽曲に映えるもので、2017年11月の1stシングル曲「KOE」、2018年2月の2ndシングル曲「PLEDGE」ともにストリングスを大々的にフィーチャーして、その声の魅力を最大限に引き出していました。
TVアニメ『グランクレスト戦記』(TOKYO MXほか)第2クールのオープニングテーマに起用された新曲「凛」もまた、勇壮なオーケストレーションと疾走感あるバンドサウンドが重なりながら次々と展開していく劇的なナンバー。ASCAの歌声も凛とした中に重みがあって、早くも貫録を感じさせるものに。カップリング曲のうち「サルベージ」では、ヴァイオリニストの吉田篤貴を中心としたストリングスユニットのEMO stringsとコラボして、ドリーミーかつ感傷的な弦楽の響きと共に、まるで哀しみを抱いて海底に沈むようなバラードを披露しています。憧れの存在だという阿部真央の楽曲「Don't leave me」の、しとやかなピアノのみをバックにしたカバーを含め、彼女の歌の力が引き立った一枚となっています。