『Early Days / Million Memories』インタビュー
暁月凛が明かす、葛藤を乗り越えて打ち出した“本当の自分”「ぶっちゃけ私、嫌われるのが怖かった」
「祖父の“職人ぶり”が人格形成に大きな影響を与えた」
――以前の取材では、「アニメ好きだったからアニソンシンガーになったわけではなくて、歌い手としては色んな人に聴いてもらいたい」とも話していました。もちろん、アニソンファンに届けたいという思いは引き続きありつつ、3年目にしてもっと広いフィールドに届けたいという気持ちはより強くなっているのでしょうか。
暁月:そこまで深くは考えていないのですが、やっぱり「アニメの世界に対して貢献したい」「アニメファンの皆さんと交流を深めたい」という気持ちは変わらないです。そのうえで、一般の方々にもアニメというジャンルの美しさ、すごさを伝えていきたいという感じです。自分がポップスの世界で成功したいというよりも、アニメやアニソンのすごさや素晴らしさを、どうすればより広いリスナー層に届けていけるか、という。
――歌い方のアプローチもこれまでの伸びやかでイノセントな声というより、より歌謡っぽい節の効いた歌いまわしが印象的で。このあたりの歌い方って、暁月さんのルーツでもあるのでしょうか。
暁月:じつは私、歌謡曲や演歌も大好きなんです。
――そうなんですね。てっきり水樹奈々さんから影響を受けているのかなと思っていました。
暁月:もちろん水樹さんからの影響もありますね。水樹さんのような繊細な歌いまわしは、いつかできるようになりたいです。「Early Days」は今までと違って声を張るような曲ではないので、ロングトーンのあとに息を使ったりと、細かいアプローチを意識的にするようにしました。
――だからこそ、力強いけど繊細という二面性が表現できたわけですね。
暁月:それが伝わっているのなら嬉しいです。ただ、自分では満足しているわけではないので、もっと高みを目指していきたいですね。
――そして楽曲はアニメ『実験品家族 -クリーチャーズ・ファミリー・デイズ-』のオープニングテーマでもあります。
暁月:『実験品家族』は、一見日常ものというか、生活感が溢れる世界観に見えるんですけど、逆に奥深い作品だと思っていて。出てくるキャラクターはそれぞれ個性が強いし、そんな彼らが「現実世界でどうやって生きていくか」という哲学的な問題も含んでいるんです。私がこの作品を見て真っ先に浮かんだのは『日常』のことで。あのアニメも、ギャグもののテイストもありながら奥深さがあるんです。特に印象的なのは東雲なのちゃんのエピソードで。なのちゃんって、最初は自分がロボであることに対してコンプレックスを抱いているけど、周りが温かく受け入れたことで、次第にそのままでもいいという価値観が芽生えてきますよね。『実験品家族』もそれに近くて。一見特別すぎる家族なんですけど、現代社会の家族に通じる部分があって。少し特殊な家族が、どうやって生きるかというテーマは、現実世界の自分たちにもリンクするでしょうし、自己啓発的なメッセージも含んでいるように感じるんです。とくに一番末っ子で一番大人っぽく見えるタニスちゃんが、どうやって普通になることに対しての執着を諦めるのか、という部分に興味があります。
――そこまで寄り添って分析できるのは、ある種、暁月さんとも近い部分があったりするからなんですか?
暁月:ああ、それはそうだと思います。私も割と子どもの頃から大人ぶっていて、最近「成長というのは焦っちゃダメなんだな」ということに気づいたので。
――どのタイミングで「焦っちゃダメだ」と気づいたんですか。
暁月:子どもの頃から大人ぶっていたからか、先ほどお話したように、人生の早い段階で「人を信じない」「自分の主張を言わない」というのが当たり前になってたんですよね。自分のなかで、そういうことが「大人」なんだって勘違いしてたんです。
――そうやって架空の「大人」を自分の中で作って、それを信じ込んでいたわけですね。
暁月:そうなんです。責任感が強くて、我慢強くて、自分の意見は言わないけど、やることをしっかりやる、というのが自分の思う大人像でした。
――まるで職人みたいですね。
暁月:私、職人の方をすごく尊敬しているんですよ。でも、本当の職人の方々は「自分の信念を貫く」ことをしている人たちであって、そこに気づくまでに時間がかかりました。
――その職人への憧れは、どこから生まれたんでしょうね。
暁月:祖父の影響だと思います。祖父は五カ国語の話せる通訳だったんですが、家では口数がそこまで多くなく、愛情表現もあまりしない人でした。でも、宿題が終わらないときにちょっと様子を見てくれたり、言葉にはしないけど、たまに見せる優しい一面がかっこいいと思っていて。それが人格形成に大きな影響を与えているのは間違いないです。
――そのような葛藤や気づきを経てリリースした作品だということをふまえて聴くと、また違った視点から捉えられるかもしれません。両A面のもう一曲「Million Memoires」は「Early Days」と対照的に、いわゆる“アニソン的”といえる一曲です。
暁月:「Million Memoires」は私の原点のような世界観が出ている一曲です。こういう幻想的というか、ファンタジーなものが10代の頃から大好きで、13歳の頃に戻ったような感覚になりますね。
――具体的に13歳という年齢が出てきましたが、その当時聴いていた「Million Memoires」の世界観に近い楽曲を挙げるとすると?
暁月:Sound HorizonのRevoさんと梶浦由記さんがコラボした「砂塵の彼方へ…」という曲は、歌う上でも自分のなかでイメージしていた一曲です。
――ああ、すごく分かりやすいです。2番のサビが終わったあとのコーラス的なところとか、まさにそんな雰囲気ですよね。
暁月:はい。私の曲でここまで壮大なコーラスを入れるのは初めてなんですよ。なので、原点でもありつつ、自分の曲としては新鮮さもあって、挑戦にもなっている一曲だと思います。
ーー暁月さんはそうして“等身大の表現”をしていくフェーズに入ったといえるのですが、3年目の活動で目指していくアーティスト像とは?
暁月:今までは本当の自分を隠していたり、ちょっと嫌われるのが怖くて表現できないこともたくさんあったんですけど、今年はもう少し心を裸にして、皆さんとコミュニケーションを取れるような1年にしたいと思いますね。そのコミュニケーションが別にリアルタイムじゃなくても、例えばインタビューやライブ、楽曲を聴いてもらうなど、色んな場所や時間で、心のつながりを持てるような年にしたいです。
(取材・文=中村拓海/撮影=伊藤惇)
■リリース情報
『Early Days / Million Memories』
発売:2018年5月16日(水)
価格:初回生産限定盤(CD+DVD)¥1,700(tax in)
初回仕様限定盤(CD only)¥1,200(tax in)
■関連リンク
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