“つんく♂路線継承”のJuice=Juiceと“脱・つんく♂”のアンジュルム 両グループの方向性を分析

 一方で、つんく♂とそれ以外の作家からの楽曲提供をバランス良く受けているのが、現在のハロプロでは三番手と言えるグループであるJuice=Juiceだ。彼女たちは、2015年以降にリリースしたシングル5作のうち、3作品でつんく♂からの楽曲提供とプロデュースを受けている。2015年以降で最初のつんく♂プロデュースとなったのは、Juice=Juiceが「NEXT YOU」という架空のアイドルに扮して主演を務めた朝井リョウ原作のTVドラマ『武道館』(フジテレビ系)に合わせて制作された『Next is you!/カラダだけが大人になったんじゃない』。アイドル業界をテーマに恋愛問題などのスキャンダルにまで踏み込んだこのドラマは、ファンの間では賛否両論あったものの、明暗の「暗」を描いた点において、音楽プロデュースにはつんく♂という人選以外ありえなかった。

 つんく♂がハロプロ総合プロデュースを退いた背景には、喉頭がんの罹患という大きな出来事があった。それでも過度に重苦しく振舞うことなく、あくまで明るく前向きに、ユーモラスな表情を表向きに貫いていたのは、いかにも彼らしい病気との向き合い方ではあったが、こと音楽制作の面では、それ以降明らかに楽曲のテイストがシリアスへと傾いた印象がある。作曲面ではm7コードを多用したマイナー調が強まり、作詞面では女子の日常描写やコミカルな言葉遊び以上に、哲学的でメッセージ性の強い言葉が増えた。それらは以前からつんく♂という作家の強い個性であり、他作家にはなかなか真似できないアクや癖にもなっていた部分ではあるものの、2015年以降の楽曲はとりわけつんく♂の作家性が強まっている。

 それは、逆に言えば「明るく楽しく元気」なアイドルソングを書けなくなった(あえて書かなくなったのかもしれない)ということで、アイドル所帯として運営しているハロプロとしては、明暗の両方が必要なのは言うまでもない。そこで、他作家の起用によってバリエーションを増やしつつ、グループのカラーや個性を鑑みた適材適所でつんく♂楽曲を投入するという方法が取られるようになったようだが、それは今のところ概ね上手く機能していると言えるのではないだろうか。

 最後に留意しておきたいのは、アンジュルムが“脱・つんく♂路線”を進んでいるからといって、それがつんく♂が築いてきたハロプロの伝統や礎の部分を否定しているわけではないということだ。ハロプロエッグ時代から数えると活動歴14年になるリーダーの和田彩花を筆頭に、いずれもハロプロへの強い愛と敬意を持っているという点は共通していて、それは彼女たちの発言に加え、パフォーマンス面での真摯な取り組みと成長にも滲み出ている。

 今年20周年を迎えたハロー!プロジェクト。一区切りが終わった後、多くのファンが望むのは現在の所属メンバーが牽引する、新しいハロプロの姿だろう。さらなる飛躍を期待したい。

■青山晃大
1983年生まれ、三重県津市出身。フリーランスの音楽ライター。「ザ・サイン・マガジン・ドットコム」「Qetic」「CROSSBEAT」他で執筆しています。

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