ケイシー・マスグレイヴス、Soccer Mommy、 Caroline Says……心洗われる“歌モノ”新譜5選

エマ・フランク『Ocean AV』

 エマ・フランクの『Ocean AV』は、同じく新譜キュレーションを連載している柳樂光隆さんに教えてもらいました。グレッチェン・パーラトやベッカ・スティーヴンスの系譜に連なる女性ジャズシンガーで、その2人に比べるともう少しポップでオーセンティック寄りでしょうか。あとはカナダ出身で(現在はブルックリン拠点)フォーキーな資質も感じさせるのもあり、ジョニ・ミッチェルの名前も思い浮かびました。

 ボーカルの味わいを言葉で表すのは難しいものですが、エマの可憐でしなやかな歌声は、「満たされない」感じがいいですね。淡いピンクを基調とした、哀愁漂うジャケットもそんなイメージを膨らませます。詩情溢れたバックバンドの演奏も秀逸で、とりわけ目を見張るのがアーロン・パークスの奏でる鍵盤と、ジム・ブラックが叩くドラム。メロウな響きと緩急自在なリズムパターンが、楽曲に豊かな表情をもたらしています。リード曲の「Best Friend」に至ってはジャズというより、ドリームポップとか人力エレクトロニカのほうが近い気もしてきますね。

Best Friend Official Video

ブルーノ・メジャー『A Song For Every Moon』

 最後に、男性アーティストの作品をひとつ。ブルーノ・メジャーの『A Song For Every Moon』は、真夜中のお供にもぴったりです。彼はサム・スミスのツアーサポートを務めるなど、勢いに乗るロンドンのシンガーソングライター。メロウで洒脱なボーカル、ジェイムス・ブレイク風の多重コーラス、Jディラ直系のビートを兼ね備え、Spotifyで3,000万回も再生された「Easily」がブレイクの起爆剤となりました。そりゃヒットするよねって感じの名曲です。

 さらにアルバム中では、ギタリストとしても味わい深いプレイを披露し、チェット・ベイカーからビョークまで取り上げてきたスタンダード「Like Someone In Love」に斬新な解釈を施すばかりか、心鎮めるピアノバラード「Places We Won’t Walk」まで披露。フォーキーかつソウルフルで、おまけにどの曲もよくできている。このデビュー作にして隙のない感じも、実に今っぽい気がします。ジャズな素養とプロデューサー的資質を兼ね備えているという点では、話題の新鋭トム・ミッシュと並べて語るべき逸材でしょう。最近はUKが熱いですね。

Bruno Major - Easily

■小熊俊哉
1986年新潟県生まれ。ライター、編集者。洋楽誌『クロスビート』編集部を経て、現在は音楽サイト『Mikiki』に所属。編書に『Jazz The New Chapter』『クワイエット・コーナー 心を静める音楽集』『ポストロック・ディスク・ガイド』など。

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