ライムスター宇多丸は新時代のタモリになる? ラジオ『アトロク』開始を機にその才能を考察

 TBSラジオでは、約11年間続いた『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(毎週土曜夜10時から2時間の生放送)が3月31日に最終回を迎えた一方、4月2日から同じく宇多丸がパーソナリティである『アフター6ジャンクション』(月~金、夕6時から3時間の生放送)がスタートした。週末の夜から平日夕方へ。しかも、65年も放送してきた野球中継を終了した枠での新番組。これと似た抜擢を過去に探すなら、初期にはマニアックな芸風で夜のイメージが強かったタモリが、昼間のテレビの帯番組『笑っていいとも!』に起用された例に近いだろうか。

『ライムスター宇多丸の映画カウンセリング』

 サングラスをかけたどこか怪しい雰囲気で、時にはきわどいふざけかたもする。それでいて関心領域が広く、独自の批評眼を示す。そんな宇多丸のキャラクターは、若い頃のタモリを連想させる部分がある。タモリはジャズ、宇多丸はヒップホップという音楽ジャンルへの愛好がバックボーンにある点も共通する。ただ、タモリにとってトランペット演奏は芸人の余技だったのに対し、ヒップホップグループ、RHYMESTERの一員として1993年にインディーズデビュー、2001年にメジャーデビューした宇多丸は、ラッパーが本業。かといって、仕事で比重が増してきたラジオのパーソナリティ、アイドルや映画の評論が余技とはいえない。彼にとってそれらは、一体的な活動となっているからだ。

 宇多丸は、ヒップホップがこの国でまだ一般的ではなく、日本語ラップがまだ物珍しかった90年代前半にデビューした。彼はRHYMESTERでヒップホップを実践するのと並行して、ジャンルの専門誌(『FRONT』~『blast』)に本名の佐々木士郎名義で「B-BOYイズム」を連載するなど、音楽批評を執筆した(「B-BOYイズム」はRHYMESTER初期の曲のタイトル)。ジャンルの渦中で活動するだけでなく、渦を俯瞰して批評的にとらえることを早くから行っていたわけだ。

 根っからの評論家体質は他の領域にも適用され、雑誌連載のアイドル論をもとにした『ライムスター宇多丸の『「マブ論 CLASSICS」 アイドルソング時評 2000~2008』、様々な話題を扱った『blast』座談会連載をまとめた『ブラスト公論』といった書籍を生む。その延長線上で、単発番組を経て2007年より『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』(略称タマフル)の放送が始まった。

 『タマフル』は、ラッパー宇多丸の言葉に対する運動神経のよさと、サブカルチャー的教養が活かされた内容だった。特にガシャポン式の抽選で観た映画を評するコーナーが名物になったほか、多くのゲストを招きつつ硬軟幅広いネタを扱った。同番組の放送2年目で彼は、ギャラクシー賞のDJパーソナリティ賞を受賞。現在、宇多丸が論客として知られているのは、『タマフル』での活躍が大きい。

 彼は『タマフル』が10周年を迎えた昨年、ラジオではなくヒップホップに専念してほしいという声に対し、次のように答え、自分の活動の一貫性を語っていた。

「例えば、いまラジオでやったり言ったりしてることって、ほとんど『B-BOYイズム』や『ブラスト公論』の放送版って感じだと思うし」「やれることは全部やる、使えるメディアは全部使うってほうがヒップホップだろ、とも思うし」(BuzzFeed News

 宇多丸は、多様な音源からサンプリング、編集してトラックを作るヒップホップの雑食性と同じく、文筆やトークでも雑食性を発揮する。複数コーナーからなるラジオ番組の主役として、編集者的視点も持っている。

 3月31日の『タマフル』最終回では映画評コーナーで『リメンバー・ミー』を読み解いたほか、番組11年間の名場面をふり返った。そこでは、東日本大震災翌日という緊張を強いられた回での「本日伝えたいメッセージはつまるところただひとつ……人間ナメんな!」の名セリフが回想された(「人間ナメんな!」はRHYMESTER「K.U.F.U.」の一節でもある)。その一方で、渋滞時に用いる簡易トイレを車の移動中に実際に使い、尿をちょっとこぼしてしまった時の放送も再生された。おバカさんである。知性、男気、悪ふざけと、なんとも振り幅が大きい番組だったのだ。

 RHYMESTERの曲にしても、社会に物申す的な風刺もあれば、バカになって騒ごうというパーティーソングもある。2015年のアルバム『Bitter, Sweet & Beautiful』がシリアスでメッセージ性の強い内容だったのに対し、昨年の『ダンサブル』はダンスをキーワードに制作したというように、硬軟両面をあわせもつRHYMESTERでもその時ごとに力点の移動はある。宇多丸にとってグループでの活動とラジオのような個人活動は共振しており、相乗効果を上げているようだ。

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