King Gnuが歌うリアルな東京の姿 猛スピードで進化するバンドの“今”を刻んだワンマンライブ

King Gnuが歌うリアルな“東京”の姿

 いまのKing Gnuのライブは『Tokyo Rendez-Vous』収録曲やSrv.Vinci時代の曲を中心としつつ、未音源化の新曲群も多く披露されているのだが(1曲目「FLASH!!!」も未音源化曲)、知らない曲だからノれないなんてフヌけたことを言わせないぐらいの世界観を構築しているところがすごい。ロック、歌謡曲、ヒップホップ、ファンク、モダンR&B 、サイケ、ハードコア……1曲の中であらゆる音楽性をミックスさせてしまうボーダレスな感性は、とても現代的。この日、私が初めて聴いた『Tokyo Rendez-Vous』未収録曲のなかには、コダック・ブラックのような、リリカルなピアノの旋律とトラップビートを組み合わせたポスト・トラップ的要素をバンドサウンドの中に入れ込んだ長尺曲もあって、バンドが今の“耳”に対して貪欲に音楽性を前進させている姿が現在進行形で見て取れた。

 さらに言えば、彼らのライブ全体を通底して表現される“混沌”もまた現代的だ。新井和輝(Ba)と勢喜遊(Dr)による強靭なリズム隊を基軸にヘヴィかつファンキーにフロアを踊らせたかと思えば、井口理(Vo / Key)がメロディアスに美声を響かせる場面もあり、さらに、常田がアコギに、新井がウッドベースに持ち替えてのアコースティック編成での演奏も聴かせたりと、ひとつの形式や伝え方に縛られない自由なステージングをKing Gnuは展開する。

 その“縛られなさ”は、そのボーカルワークにおいても顕著で、King Gnuのライブを観たとき、まず聴き手に強烈な印象を与えるのは、通常のマイクではなくメガホンに向けて歌う常田のノイズ混じりの歌声と、井口の圧倒的に艶やかな美声のコントラスト。まるで海賊版のラジオから聴こえてくるような常田の声は、曲にダーティさとアンダーグラウンドの香りを与え、井口の歌声は曲に美しさと大衆性を与える。ひとつの世界のなかにふたつの声を持ち、「好き」と「嫌い」を、「綺麗」と「汚い」を、「ポップ」と「アヴァンギャルド」を、両立して表現できるからこそ生まれる愛すべき混沌が、ここにはある。

 アンコールで演奏された「サマーレイン・ダイバー」は、まるでゴスペルのような美しい音像を持った曲で、『Tokyo Rendez-Vous』の最後に収録されていた曲でもある。この日の演奏では、井口に先導されて合唱が起こっていた。ゴスペルは2016年以降、Chance The RapperやFrancis and the Lightsらによって、その在り方を再定義された、いわば“祈り”の音楽だ。だが、King Gnuはこの“祈り”の表現に、そう簡単には行きつかない。あくまで1枚のアルバムを、1回のライブの最後に辿りついた“果て”でゴスペルという“祈り”を描こうとする。このスタンスがKing Gnuらしさなのだと思う。

 とてつもなく多くの数の人が行き交いながら、誰も目と目を合わせない東京という街。深夜のマクドナルドでささやき合う二人の、雑音にかき消されそうになる小さな声に耳を澄ませる。その喜びと悲しみに満ちた小さな声を掻き集めてみれば、とても歪で、混沌としたゴスペルが生まれる。この日は、7月に行われる恵比寿LIQUIDROOMでのワンマン公演も発表された。この奇妙な祈りの音楽がどんな道を辿っていくのか、追いかけていきたい。

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■天野史彬(あまのふみあき)
1987年生まれのライター。東京都在住。雑誌編集を経て、2012年よりフリーランスでの活動を開始。音楽関係の記事を中心に多方面で執筆中。Twitter

■セットリスト
King Gnu『Tokyo Rendez-Vous X』
2018年3月23日(金)渋谷WWW X

1. FLASH!!!
2. Tokyo Rendez-Vous
3. McDonald Romance
4. Catch!!!
5. あなたは蜃気楼
6. PPL
7. Vivid Red
8. Hitman
9. It’s a small world
10. 破裂
11. Diving to you
12. ロウラブ
13. Teenager forever
14. Vinyl
-Encore-
15. サマーレイン・ダイバー

King Gnuオフィシャルサイト

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