星野源「ドラえもん」は全世代を魅了するパーフェクトなポップソングだ 柴 那典がその仕掛けに迫る

 星野源が、2月28日にシングル『ドラえもん』をリリースした。表題曲は『映画ドラえもん のび太の宝島』の主題歌として書き下ろした楽曲で、リリース以前から楽曲のユニークさやアートワークが話題を呼び、音楽ファン以外からも多くの注目を集めていた。そしてリリース後に発表されたオリコンデイリーCDシングルランキング(2月27日付)では1位を獲得し、『恋』(2016年10月)、『Family Song』(2017年8月)に続く3作連続1位の記録を樹立した。今回リアルサウンドでは、新作『ドラえもん』について考察。音楽ジャーナリストの柴 那典氏が、本作の聞きどころと数々の仕掛けについて迫った。(編集部)

星野源は大胆にJ-POPをアップデートしている 

 同じ時代に生まれてよかったーー。

 先日フジテレビにてオンエアされた音楽放談番組『心のベストテン』にて筆者とダイノジ・大谷ノブ彦さんが星野源の新曲「ドラえもん」について語り合ったのだが、最後に大谷さんが感慨深げに言っていたのがこの一言。僕も心から同意する。

 こうしたエンターテインメントに関する原稿を書く時には、ある種のクリシェとして「目が離せない」という言葉を使うことが多いのだが、今、星野源がやっていることは文字通り、本当に目が離せない。ワクワクする。たった1曲で世の中の雰囲気や音楽シーンの潮流をガラッと変えてしまうようなパワーを持っている。他の人が誰もやっていなかった革新的なサウンドを形にしつつ、生来のサービス精神と人懐っこさで、誰のことも置き去りにしないポップソングを作っている。「イエローミュージック」という概念を掲げて、大胆にJ-POPをアップデートしている。

 では、この「ドラえもん」という曲の、どこがどうすごいのか。

 まず当たり前すぎて見逃しがちだけれど、「ドラえもん」というタイトルがすごい。そして〈どどどどどどどどど ドラえもん〉というサビの決め台詞のフレーズがすごい。

 この曲は3月3日に公開される『映画ドラえもん のび太の宝島』の主題歌なわけだが、こうしたタイアップをオファーされたとしても、このタイトルと中身はなかなか思いつかない。なにせ相手は日本を代表するマンガであり、アニメであり、キャラクターだ。そうでなくとも、通常、アニメや映画の主題歌のタイアップを作るにあたっては、原作のテーマをどう自分のアーティスト性や普段のモチーフに引き寄せるかというタイプの発想がよく用いられる。しかしこの曲ではタイトルも歌詞も、真っ向から全力の直球で「ドラえもん」に対してのオマージュを繰り広げられている。

 まずそれが明らかになるのが、歌い出しの〈少しだけ不思議な 普段のお話〉。これが藤子・F・不二雄が言う「SF=すこしふしぎ」に引っ掛けたものであることは、聴けばすぐに気付くはず。続く〈指先と机の間 二次元〉からはマンガを執筆する光景が思い浮かび、〈落ちこぼれた君も〉で主人公ののび太をイメージさせつつ〈そこに四次元〉とドラえもんの四次元ポケットを登場させる。歌詞の中にはジャイアンもスネ夫もしずかちゃんも出来杉くんも、固有名詞ではなくそれと暗示する形で登場する。他にも『映画ドラえもん』シリーズを踏まえたエピソードや小ネタを彷彿をさせる歌詞の言葉が沢山出てくる。歌詞の解釈自体はリスナーに委ねられているのだが、「これはあれのことか」と思わせる隠喩がたっぷり詰め込められている。

 サウンドも大胆だ。

 星野源自身がラジオやインタビューで「ニューオーリンズと笑点のハイブリッド」と解説しているのだが、このアイデアには本当に脱帽した。誰も思いつかない。たとえアイデア自体はあったとしても『ドラえもん』の主題歌のシングル曲でそれを子供でも一聴して歌えるようなポップソングにしようとはゆめゆめ思わないだろう。

 「ニューオーリンズと笑点のハイブリッド」とはどういうことか。これは言葉でクドクド説明するより、ドクター・ジョンのアルバム『ガンボ』の1曲目「Iko Iko」と「笑点のテーマ」を聴き比べたうえで『ドラえもん』を聴けば、きっと伝わるのではないかと思う。ニューオーリンズの華やかで陽気な葬送パレードから生まれた、独特のアクセントを持った「セカンドライン」というビート。それと「笑点のテーマ」のコミカルなフレーズの両方を彷彿とさせるようなテイストでイントロが組み立てられている。しかもそれを7小節でぶった切って歌とギターとベースがユニゾンするAメロに飛び込んでいく。

 音楽的な仕掛けはまだまだ込められている。中間部でオリジナルのアニメ主題歌「ぼくドラえもん」のメロディを引用しているところも小憎い。一聴して〈それがどうした ぼくドラえもん〉のフレーズに気付くのだが、コードや演奏がまったく違うので原曲とは違う印象に仕上がっている。

 というわけで、ゾクゾクするような仕掛けと革新的な挑戦が満ちた一曲なのだが、何よりとんでもないのは、そんな曲が「一回聴いたら耳から離れなくなる」ということだと思う。小難しさは一切ない。どころか〈何者でもなくても  世界を救おう〉〈どどどどどどどどど ドラえもん〉というフレーズは、子供でもついつい歌ってしまうような親しみやすさを持っている。

 シングルのカップリングには「ここにいないあなたへ」という『映画ドラえもん のび太の宝島』の挿入歌が収録されている。こちらはデビュー初期の星野源を彷彿とさせるような、あたたかく包容力のあるバラード。彼自身もインタビューなどで「ドラえもんのタイムマシンで2011年頃の自分に会いに行って楽曲制作をオファーした」と語っている。一方、STUTSを迎えた「The Shower」はブラックミュージックを彼なりのやり方で解釈した今のモードの先にあるものを示すような曲。歌詞のモチーフはしずかちゃんなのだろうか。そしてカップリング恒例の自宅録音は「ドラえもんのうた(House ver.)」。DVDに収録される映像作品やそのコメンタリーも含めて、シングルというパッケージに一切手を抜かずできる限りのサービス精神を詰め込む星野源の流儀も変わらない。

 ドラえもんというのは、今や日本のアニメーションの古典である。と同時に、今の子供たちを魅了する現在進行形のヒットコンテンツでもある。声優が大山のぶ代から水田わさびに変わったことが象徴的だが、それぞれの世代に、それぞれの世代のドラえもんがある。でも、今回の星野源の「ドラえもん」は、どの世代にも受け入れられる大衆性を持った楽曲に仕上がっている。

 ポップというのは、決して「わかりやすい」ということではない。今までにない目新しさや革新性と、それでいて一度触れたらすっと馴染んでしまう浸透力を兼ね備えたもののことを言う。そう考えると、今回の星野源「ドラえもん」はまさにパーフェクトなポップソングと言うことができると思う。

■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

■リリース情報
『ドラえもん』
発売:2018年2月28日(水)
価格:初回限定盤(CD+DVD)¥1,800+税 
通常盤(CD)¥1,200+税
<CD収録内容(初回限定盤・通常盤 共通)>
1. ドラえもん 『映画ドラえもん のび太の宝島』主題歌
2. ここにいないあなたへ 『映画ドラえもん のび太の宝島』挿入歌
3. The Shower
4. ドラえもんのうた(House ver.)
<初回限定盤特典DVD  『ViVi Video』>
約70分
・ニセ明をスキーに連れてって。
・厳選弾き語りライブ映像(テレビ朝日ドリームフェスティバル)を収録!
収録曲:化物/地獄でなぜ悪い/恋/SUN
星野源と友人によるコメンタリー付

<オリジナル特典詳細>
下記対象店にて『ドラえもん』を、予約・購入者に、先着で“星野源『ドラえもん』オリジナルA5クリアファイル”をプレゼント。
Atype:タワーレコード 全国各店 / タワーレコードオンライン
Btype:TSUTAYA RECORDS 全国各店 / TSUTAYA オンラインショッピング
※TSUTAYAオンラインショッピングは、予約分のみ対象。
Ctype:HMV 全国各店 / HMV & BOOKS online
Dtype:Amazon.co.jp
※Amazon.co.jpでは、特典つき商品を購入者が対象。
Etype:WonderGOO全国各店 / 新星堂全国各店 / 新星堂WonderGOO楽天市場店 (一部取扱いの無い店舗あり。)
山野楽器 全国CD/DVD取扱い店舗 / 山野楽器オンラインショップ
Rakutenブックス
※Rakutenブックスでは、特典つき商品購入者が対象。
セブンネットショッピング
A!SMART
ビクターエンタテインメント オンラインショップ
その他対象店舗(ビクターオフィシャルサイトにて随時発表)
※特典typeにより、絵柄は異なる。
※特典は無くなり次第終了。
※一部お取扱いの無い店舗等もあり。詳しくは各店舗へ問い合わせのこと。
※対象店は随時追加。

■公開情報
『映画ドラえもん のび太の宝島』
公開時期:2018年3月3日(土)
原作:藤子・F・不二雄
監督:今井一暁
脚本:川村元気
主題歌・挿入歌:星野源

■関連リンク
11thシングル『ドラえもん』作品特設サイト
『映画ドラえもん のび太の宝島』公式サイト
星野源 オフィシャルサイト

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