集団行動、予想のつかない成長過程へ 自主企画『集団行動の会談公演』を観て

齋藤里菜の覚醒

 集団行動の新作『充分未来』がリリースされた2月7日に開催された、彼らの自主企画『集団行動の会談公演』。渋谷クラブクアトロにてAwesome City Clubと集団行動のツーマンライブとして行われたこの企画は、それぞれのバンドの顕著な成長曲線を体現するものとなった。

 先にステージに登場したのはAwesome City Club(以下ACC)。ここ最近の彼らのライブには、元来のクールな仮面をかなぐり捨てて、熱くオーディエンスに迫ってくるような力強さがある。この日もダンサブルな楽曲ではatagi(Vo/Gt)とPORIN(Vo/Syn)の2人がステージ前方にせり出して身体を動かすなど、よりフィジカルな魅力を強調するパフォーマンスを披露した。3月にリリースされるファンキーな新曲「Magnet」もそんな路線をさらに推し進めたものであり、タイアップ(この曲は映画『レオン』のテーマソングとなっている)との相乗効果も含めて、今まで以上に広い層に届くのではないだろうか。

 メジャーデビュー後のACCの歴史を振り返ってみると、その足跡はPORINの進化の過程と重なっているように思える。デビュー直後は半ば意図的に操り人形然としたスタンスをとっていた彼女は(それは決してネガティブな意味ではなく、そんな構造だったからこそ名曲「4月のマーチ」が生まれた)、徐々にバンドの中心としての自覚を獲得し、今では完全にパフォーマンス面でバンドを引っ張る存在となった。そんなPORINの覚醒と合わせて、他のメンバーの演奏も着実に迫力を増しつつある。

 「フロントマンの覚醒」がバンドのフェーズを進めていく。こういった構図は、集団行動にもあらかじめ期待されているものである。ボーカルの齋藤里菜は、このバンドに加入するまで音楽経験はほぼゼロ。真部脩一(Gt)は集団行動の結成にあたって、キャリアのあるミュージシャンではなく「ほとんど素人」と言ってもよい(ミスiDとしての芸能活動を行っていたとはいえ、「キャリア」と呼ぶには少し心もとないものであるのは間違いない)齋藤に重要なポジションを託した。それゆえ、集団行動がバンドとして飛躍を遂げるには、齋藤が「素質はある」「キャラクターは良い」というレベルにとどまらない形で成長することが不可欠になってくる。

 そんなわけで、今回のライブに関しての最大の関心事は、「齋藤がフロントマンとしてどこまで成長しているか」という点だった。そして、結論を先に述べると、彼女はその劇的な進化をステージ上で存分に見せてくれた。

 明確に変わったのは、その立ち振る舞いである。歌を歌ってはいるもののどこか手持ち無沙汰だったCDデビュー前後のライブから一転、この日の齋藤は完全に自身のパフォーマンスを楽しんでいたように思える。「ぐるぐる巻き」ではステージを自由に動き回り、「東京ミシュラン24時」ではオーディエンスに手拍子を要求したり曲終わりにジャンプをしたりするなど、楽曲の魅力を増幅させるための役割を存分に果たしていた。また、「ホーミング・ユー」での客席を見渡す際の堂々とした立ち姿や「絶対零度」での髪をかき上げる際の切なげな表情など、(どこまで意識的かはわからないが)些細な部分においてもその楽曲の世界を表現しようという意欲が見て取れた。

真部脩一

 昨年の春先にライブを見た際には、ステージで存在感を放ちながらギターを弾きまくる真部と楽曲を何とか歌いこなそうとする齋藤のコントラストに、「やはりこのグループは真部のプロジェクトなんだな」という印象を受けざるを得なかった。それに対してこの日のライブは、魅力的なフロントマンに引っ張られて真部、西浦、そしてサポートのメンバーが楽しそうに演奏するというまさに「バンド」によるものだったと言える。

 細かいフレーズの歌い回しなど、もちろん齋藤のパフォーマンスにはまだまだ伸びしろがある。ただ、確実に言えるのは、この日のライブを通じて「真部のやりたいことのために経験の浅い女の子が何となく連れてこられたバンドが集団行動」といった印象が完全に払拭されたということである。フロントマンがいよいよ明確な力を持つに至ったこのバンドは、この先さらにユニークな存在となっていくのではないだろうか。

齋藤里菜

関連記事