キーパーソンが語る「音楽ビジネスのこれから」 番外編
山下達郎の持つ“先見の明”とは? プロジェクトのキーマン・スマイルカンパニー黒岩利之氏に聞く
「マネジメントが“アーティストにとって究極のお世話係”ではいけない」
――黒岩さんは、山下達郎さんを世の中に伝えていく立場として、アーティスト性と世の中の動きのバランス感覚を見ながら、どのように伝えることを重要視しているのでしょうか。
黒岩:どれだけのアーティストバリューになっても、常に山下達郎と初めて出会う人というのは必ずいるという意識で動いています。そんな人たちにとって、いい出会いをこちらが用意できるかどうかは常に気にしていきたいですね。もちろん、築き上げてきたブランディングを崩すようなことはしたくないのですが、長く築いてきたからこそ見落としていた部分や、かつては使えなかったけど今なら新鮮に思える施策があれば、常に本人に提案しています。
――なるほど。株式会社スマイルカンパニーというと、個性の強い音楽系事務所の一つというイメージですが、そのなかでマネジメントの役割について、黒岩さんはどういったお考えがあるのでしょうか。
黒岩:マネージメントって、「アーティストにとって究極のお世話係」であることがつい求められがちになっていると思います。ただ、それではいけないだろうなと感じていて。仕事を取ってきたり、アーティストを活性化させたり、より価値が高まるような仕事に注力するのがスタッフだろうと。もちろん、居心地のいい空間を作ることは大事なのですが、それに甘んじていると新しいことが起きていかないような気がするので、常にビジネスを発展させていく気概を持ったスタッフであることは重要だと思います。
――黒岩さん自身が、いま実現してみたいプロジェクトもあったりするのでしょうか。
黒岩:そうですね。新人発掘には力を入れてきたいと思っています。インディーズで活動している若いアーティストや作家が「この事務所に入りたい!」と思える会社になれるよう、スタッフワークや僕らの強みをどんどん業界内外にアピールしていきたいですね。いま、30人前後の作家が弊社に所属しているのですが、彼らが年間200曲ぐらい提供していて、世の中に出る曲のシェアをがっちり掴んでいると思います。そういう強みを生かしながら、どんどん色んな人材を活性化させて、より新たな才能の集まってくる場所にしたいです。
――一方で、長くレコード会社に所属していた立場として、レーベルの役割についてはどのように変化すると考えていますか。
黒岩:今は変化の真っ只中だと思います。これから先、メーカーはきっと360度ビジネスの方向になっていって、我々事務所のやり方と競合していくかもしれませんが、それは協業の仕方を変えるべき局面に入っていると受け止めて、シェアできるところはシェアする方向にいくべきだと考えています。なので、役割は変わってもパートナーとしてより密に連携することが求められてくるかもしれませんね。
――最後に、今後の山下達郎さんの動きについても伺わせてください。
黒岩:活動の軸であるライブとCDリリースの2本柱をより充実させていこうと思っております。立場が変わっても引き続き、プロジェクトの旗振り役として今回の「WIZY」のような、プロダクツがより活性化するようなトライを積極的にしていきたいと思っていますので、是非ご期待ください。
(取材・文=編集部/写真=三橋優美子)