BRIAN SHINSEKAI × フルカワユタカ対談 2人の音楽家が邂逅し生まれた「東京ラビリンス」

BRIANとフルカワの邂逅

 すべての楽曲の作詞作曲を自ら手掛けるソロアーティスト、BRIAN SHINSEKAI。彼がメジャーデビューアルバム『Entrée』を完成させた。もともとは「ブライアン新世界」名義で若手アーティストの登竜門『閃光ライオット』にも出場していた彼は、今回BRIAN SHINSEKAIに表記を変更。この『Entrée』では80年代ニューウェーブなどを思わせる耽美な世界観をモダンなエレクトロビートで現代風にアップデートし、そこに北欧やインドを筆頭にした様々な神話のモチーフを加えることで、まるでフィクションと現実の境界線に位置するような雰囲気の中で、人の根源的な感情=「愛」「信仰」「死」をテーマにした壮大な叙事詩を描き出している。

 アルバムの発売に向けて1曲ずつサブスクリプションを通して収録曲が解禁され、発売日に全体像が完成するというユニークなリリース方法も話題だ。中でも、今回の作品の核となる曲としてアルバム発売日当日に解禁されたのが、元DOPING PANDAのフルカワユタカを迎えた「東京ラビリンス ft,フルカワユタカ」。この曲では作品中の重要なキーポイントとして、フルカワユタカがカッティングギターを担当している。果たしてこの楽曲はどんな風に出来上がったものだったのか。また、BRIAN SHINSEKAIがこの作品で目指したのはどんなものだったのか。作品完成直後にフルカワユタカとともに振り返ってもらった。(杉山仁)

BRIAN SHINSEKAI - 東京ラビリンス ft. フルカワユタカ

“演奏の手触り感”がほしかった(BRIAN SHINSEKAI)

ーーまずは今回、作品における唯一のゲストミュージシャンとして3曲目「東京ラビリンス」にフルカワさんが参加することになった経緯を教えてもらえますか?

BRIAN SHINSEKAI(以下、BRIAN):今回のアルバムはほとんど生楽器を使わないエレクトロな作風で、マスタリングも3分の2は僕自身でやりました。その中で「80年代、90年代のエレクトロを基調としながらも現代のサウンドといいバランスで調和させたい」と考えたときに、1曲、ナイル・ロジャースの現代版的な曲がどうしてもほしくなったんですよ。

ーーたとえるなら、Daft Punkの「Get Lucky」に参加したときのナイル・ロジャースのイメージですね。最近だとカルヴィン・ハリスが最新作『Funk Wav Bounces vol.1』で生音のディスコファンクを取り入れていたことにも通じる話だと思うのですが、エレクトロなサウンドの中に生音の魅力を加える役割をフルカワさんに担当してもらった、と。

BRIAN:そうです。曲の構築の仕方は、Daft Punkよりもカルヴィン・ハリスの方がシンクロしているかもしれないですね。サンプリングで曲を作ってきた人が、生音で作る時にどう変わるかということで。今回の僕のアルバムは全体がエレクトロな雰囲気になっている中で、「東京ラビリンス」には(音の)切り貼りではない“演奏の手触り感”がほしいと思っていました。ただ、僕はギタリストでもないですし、誰かに参加してもらうにも、自分が求めているイメージだと弾いていただく方は限定されると思っていて。そこでフルカワさんに参加してもらうというアイデアが出てきました。

フルカワユタカ(以下、フルカワ):そういうことだったんだね。もともと、僕とBRIANとは事務所の先輩と後輩なんですよ。僕が一度事務所を抜けている間に、彼が入ってきた形で。それに今僕のマネージャーをしてくれているスタッフが、もともと彼のマネージャーでもあったりするので、その繋がりもあって僕がDOPING PANDA時代の曲ばかりを演奏したライブを、彼が観にきてくれたのが最初でした。

BRIAN:恵比寿リキッドルームで観させていただいて。

フルカワ:その終演後に紹介されて、「すごく雰囲気のある子だな」と思ったのを覚えています。それで僕も音を聴いて、今度は僕が代々木に彼のライブを観に行って。声がグラマラスで、癖があるんだけれどどこかプリンスっぽくて、すごくセクシーだと思いました。マネージャーに「彼、雰囲気あっていいね」と伝えたのを覚えています。そういう経緯もあって今回、僕のところに情熱たっぷりのメールを送ってくれたんですよ。僕に対する気持ちや、この曲はこんなモチベーションで作ったという話が書いてあって、「この曲にナイル・ロジャースみたいなギターがあれば完成するんです」と。最初はマネージャーが書いたメールなのかと思って、今どきこんなに熱いメールを送ってくるスタッフがいるんだなと思っていたら、本人が書いてくれていて(笑)。とてもありがたいメールでした。

ーーBRIANさんはフルカワさんの音楽やプレイにどんな魅力を感じますか?

BRIAN:僕はもともとデジタルな音楽を好きで聴いてきて、今でこそ好きなものも多いんですけど、(フルカワさんがDOPING PANDAとしてデビューした)2000年代前半の音楽は、当時は自分にフィットしないものが多かったんですよ。でも、フルカワさんの音楽はインディーダンスな感じもありつつ、メジャーなサウンドもあって、エレクトロでもパンクでもあって……。曲の構成や音色の使い方がエッジーだし、そのバランスが大好きだったので、中学生の頃もDOPING PANDAだけは聴いていました。今考えると、日本のロックの2000年代からの源流を作られてきた方ですよね。あと、パンク風のカッティングやリフを弾いている人の中でも、フルカワさんはすごくギターヒーロー的な雰囲気を感じるんですよ。Van Halenやプリンスのような、80年代のギターヒーローの香りを感じる。メタルっぽいことやハードロック的なことをしなくてもギターヒーローに見える人はなかなか他にいないと思うので、そういう意味でもオンリーワンだと思います。

フルカワ:ああ、嬉しいです。ありがとう。

ーーもともとフルカワさんはメタルやハードロックも好きで、技術を突き詰めてきた方でもありますよね。それがギターヒーロー的な雰囲気に繋がっているのかもしれません。

フルカワ:もちろん、上手いことだけが偉いとは思わないし、上手くない音楽にもロマンがたっぷりとあって、そういう音楽もすごく好きですけどね。ただ、僕個人としてはスキルを求めていくし、そういうアーティストでありたいといつも思っています。BRIANもきっと、ただ上手ければいいというわけではないと思うけれど、スキルやテクニック、知識を構築するところに音楽的な喜びを感じるアーティストですよね。そういうところはちょっと似ているのかもしれない。それはつまり、「何でもいい」というわけではないということで。だから彼もソロアーティストという形式に辿り着いたのかもしれないですね。

ーー具体的に「東京ラビリンス」の制作中/レコーディング中の話を聞かせてもらいたいのですが、この曲は今回のアルバム『Entrée』の中でも、音楽的なアイデアが他とは違っていて、すごく目立つ楽曲になっていますよね。1曲だけ毛色が違うというか。

フルカワ:作品の幅を広げる曲になっているんだね。僕は最初に聴かせてもらって、とてもいい曲だと思いましたよ。他の曲と雰囲気が違うというのは、作品のキーとなる曲を作ろうというモチベーションだったのかな?

BRIAN:そうですね。他の曲は世界観や言葉選び、メロディーライン、コード進行に統一感がありますけど、この曲だけはあえてそこから外しました。他の曲は北欧神話っぽい歌詞があったりする中で、「東京ラビリンス」はシティー感やソウルフルな雰囲気がある曲で。R&Bのちょっと硬くてウェットなダンスビートが、今の時代にシンクロするんじゃないかというアイデアで作りはじめた曲です。ナイル・ロジャースはDaft Punkの「Get Lucky」でまた注目されましたけど、その役割をフルカワさんみたいにテクニックもロックスピリットも、フロントマンとしての魅力もある方にお願いすることで、プリンス的なアクの強さとナイル・ロジャース的な曲を支配するグルーブの両方を楽曲に入れられるんじゃないかと思って。それでこのギターはフルカワさんに弾いていただきたかったんです。

フルカワ:プリンスとナイル・ロジャースを担当する役目が僕というのは、相当プレッシャーだよ(笑)。でも、とてもありがたい話でした。そのうえで、僕は自分みたいにしか弾けないので、自分らしく弾いて喜んでもらえればいいなと思ってスタジオに向かいましたね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる